スプリントレビューとは?やり方、参加者、レトロスペクティブとの違いは?

スプリントレビューは、アプリ・システム開発の手法のひとつであるアジャイル開発(のうちのスクラム開発)の開発工程のひとつで、期間を区切った開発(スプリント)の結果を関係者がレビューすることです。

スプリントレビューでは、アプリ・システム開発の受注者だけでなく、発注者の関係者(ステークホルダー等)も参加し、スプリントやプロジェクトの進捗をチェックします。

アジャイル開発・スクラム開発では、スプリントレビューは、開発業務・開発チームの改善・効率化や、発注者側の要望の反映などの重要なチャンスとなり、まさにプロジェクト成功の鍵となります。

このページでは、そのようなアジャイル開発の中で特に注目すべき要素であるスプリントレビューについて、やり方、参加者、スプリントレトロスペクティブとの違い、目的等について、簡単に解説します。

スプリントレビューとは

スプリントレビュー=関係者全体でスプリントの成果を共有すること

スプリントレビューとは、スプリントの結果について、開発チーム以外の当事者を含め、関係者全体で共有することです。

【意味・定義】スプリントレビューとは?

スプリントレビューとは、アジャイル開発(スクラム開発)の開発工程において、開発チームがスプリント期間中に達成した成果物や進捗状況を全体のメンバーやステークホルダーと共有し、その成果物に対するフィードバックを収集するためのイベントをいう。

スプリントレビューは、プロジェクトの成果を全体で共有する貴重な場です。

このプロセスにより、開発チームは、スプリントバックログの達成度合いなど、プロジェクトの進行状況を透明化し、プロダクトオーナーやステークホルダーとの共感を築きます。

【意味・定義】スプリントバックログとは?

スプリントバックログとは、個々のスプリントにおける開発対象となった要求事項のリストについて、目標、作業内容、タスクのリストをまとめたログ(記録)をいう。

スクラム開発のスプリントバックログとは?作成方法や活用目的を解説

また、プロダクトオーナーやステークホルダーからのフィードバックを収集することで、品質改善や方向性の微調整が可能になり、持続的な改善を推進します。

スプリントレビューの参加者は?

スプリントレビューの主な参加者と役割は以下の通りです。

スプリントレビューの主な参加者と役割
開発チーム(スクラムチーム)の開発メンバー 開発に関与した全てのメンバーが、自身の成果を発表します。
ステークホルダー プロジェクトに関心を持つステークホルダーがフィードバックを提供し、方向性を確認します。
スクラムマスター プロセスの適切な実行をサポートし、障害物を解決します。
プロダクトオーナー プロダクトの方向性や優先順位に関する情報を提供します。

スプリントレビューとスプリントトロスペクティブとの違いは?

スプリントレビューとスプリントレトロスペクティブは似ていますが、異なる目的を持っています。

スプリントレビューは、開発チームによる、達成した成果物のデモンストレーションとフィードバックの収集に焦点を当てています。

一方、スプリントレトロスペクティブは、開発チームのプロセスやコラボレーションに関する反省と改善に重点を置いています。

スプリントレビューとスプリントレトロスペクティブの最大の違いは、スプリントレビューは開発チームのみならず発注者側の関係者(プロダクトオーナー・ステークホルダー)が参加するのに対し、スプリントレトロスペクティブは受注者側の開発メンバーのみが参加する点です。

スプリントレビューとレトロスペクティブの違い
スプリントレビュー スプリントレトロスペクティブ
主な目的
  • スプリントでの開発の工程や活動、成果を査定する
  • 次回のスプリント計画に向けて追加するべきことを理解する
  • チームのプロセスを改善すること
  • チーム内の人間関係の構築
参加者
  • 管理者(スクラムマスター)
  • 発注者(プロダクトオーナー、場合によってはさらに上位の管理者)
  • 開発者
  • ステークホルダー
  • 開発チーム/スクラムチームの開発メンバーのみ

※管理者は参加しない

この他、スプリントレトロスペクティブの詳細な解説につきましては、以下のページをご覧ください。

スプリントレトロスペクティブとは?役割と流れ・注意点を解説

スプリントレビューの目的

スプリントレビューの主な3つの目的

スプリントレビューの目的は、主に次の3つです。

スプリントレビューの目的
  • 成果物のデモンストレーション
  • ステークホルダーのフィードバックの収集
  • 進捗と目標達成度の確認

それぞれ、簡単に解説していきます。

目的1:成果物のデモンストレーション

スプリントレビューの1つめの目的は、開発チームがスプリント期間中に生み出した成果物をデモンストレーションすることです。

このデモンストレーションにより、参加者全体に、プロジェクトの進捗や、機能の実装状況等、具体的な成果が明示・共有されます。

なお、スプリントレビューは、次回以降のスプリントに向けたフィードバック(後述)を受けることも目的となります。

このため、開発チームとしては、スプリントの結果について、成果のみならず、問題点や今後の課題も含めて共有することが重要となります。

成果物のデモンストレーションの具体例
  • ユーザーがタスクを作成し、編集する方法のデモンストレーション
  • タスクの優先度設定と進捗ステータスの変更方法のデモンストレーション
  • タスクの検索機能のデモンストレーション

目的2:ステークホルダーのフィードバックの収集

スプリントレビューの2つめの目的は、開発チームが発注者側の関係者、特にステークホルダーからのフィードバックを収集することです。

スプリントレビューでは、ステークホルダーは、単にスプリントの結果を共有するだけでなく、成果物を評価し、要求事項や期待に合致しているかどうかを確認します。

このフィードバックは、次回以降のスプリントやプロジェクト全体の方向性を調整し、品質向上に貢献します。

このため、ステークホルダーとしては、漫然とスプリントレビューに参加するのではなく、当事者意識を持って参加し、積極的にフィードバックすることが重要となります。

同時に、プロダクトオーナーとしては、ステークホルダーからの積極的なフィードバックを引き出すことが重要となります。

ステークホルダーのフィードバックの具体例
  • 「タスクの編集機能が使いやすいですが、もう少し直感的な方法で優先度を変更できると嬉しいです」
  • 「検索機能は素晴らしいですが、フィルタリングオプションを追加することで、タスクの絞り込みがもっと便利になると思います」

目的3:進捗と目標達成度の確認

スプリントレビューの3つめの目的は、参加者全体でプロジェクトの進捗と目標達成度を確認することです。

スプリントレビューでは、開発チームは、スプリントバックログの達成等について、スプリントゴールに向かってどれだけ進んでいるかを検証し、必要に応じて調整をおこないます。

これにより、プロジェクトが計画通りに進行しているかどうかを把握し、適切な対策を講じることが可能になります。

この際、時間に対する進捗を視覚的に表示するツールであるバーンダウンチャートなどの導入が効果的です。

【意味・定義】バーンダウンチャートとは?

バーンダウンチャートとは、開発プロジェクトの進捗状況が一目でわかるようにグラフ化したものをいう。

進捗と目標達成度の確認の具体例

前提:スプリント期間が2週間で5つの新機能(ABCDE)を実装するスプリントバックログの場合

  • 5つの新機能のうち、機能ABCの3つの実装を確認。
  • 機能Dについては、バーンダウンチャートで進捗度合いを確認したところ、残りのタスク量が20%であるため、次回のスプリントのスプリントバックログとすることを決定。
  • 機能Eについては、未着手であったため、いったん開発を停止することを決定。

スプリントレビューの準備とやり方

スプリントレビューを成功させるためには、受注者が側による準備とスムーズな進行が重要です。

ここでは、スクラムマスターとして覚えておきたい準備や進め方のポイントについて確認します。

スクラムマスターによるスプリントレビューの主な事前準備

スプリントレビューの事前準備として、スクラムマスターは、主に次の3点をおこないます。

スクラムマスターによるスプリントレビューの事前準備
デモンストレーションの準備 スムーズなデモをおこなううためのデモ用の環境やデータの用意・整備。
フィードバックの収集ツール ステークホルダーからのフィードバックを収集するための適切なツールやフォーマットの用意。
スケジュールの調整 全員が参加できる日程・スケジュールの調整。

これにより、効果的なフィードバック収集とスムーズな進行が確保され、プロジェクトの品質と進捗の向上に貢献します。

スクラムマスターによるスプリントレビューの効率的な進め方

スプリントレビューには、受注者側の関係者だけでなく、発注者側の関係者も参加します。

参加者が多くなればなるほど、時間の制約が多くなるため、スクラムマスターには、短時間で効率的なスプリントレビューの進行が求められます。

そこで重要になるのが、以下の進め方です。

スクラムマスターによるスプリントレビューの効率的な進め方
タイムボックス 効率的に進行のため、各デモやフィードバックセッションに時間制限を設けること。
フォーカス 不要な議論を避けるため、本質的なトピックにフォーカスすること。
アクションアイテム アクションアイテムはフィードバックから得た洞察に基づく具体的で明確なものとすること。

これにより、プロジェクトの生産性を向上させ、期限を守りつつ、アプリ・システムの品質を維持することが可能となります。

スプリントレビューにおけるフィードバックの活用方法

フィードバックを収集することは重要ですが、それを最大限に活用するためにはいくつかのステップが必要です。

スプリントレビューにおけるフィードバックの活用ステップ
  • 収集したフィードバックの分析
  • 優先度の再評価とタスクの調整
  • 次のスプリントへの改善の反映

以下、それぞれ簡単に解説します。

ステップ1:収集したフィードバックの分析

スプリントレビューのフィードバックを活用する第一歩は、収集した情報を詳細に分析することです。

以下、スプリントレビューでおこなわれる分析の事項と手法について、簡単に説明します。

スプリントレビューにおけるフィードバックの分析事項
要約 フィードバックを最初に要約します。
共通のテーマの識別 類似したフィードバックや要望を探します。
根本原因の分析 フィードバックに対する根本原因を分析します。
改善策の提案 フィードバックに基づいて、具体的な改善策を提案します。

これにより、特定のパターンやトレンドを見つけ、プロジェクトにどのように影響を与えるかを理解します。

収集したフィードバックの分析の具体例
  • フィードバック内容:ステークホルダーから「タスクの編集機能が使いやすいですが、もう少し直感的な方法で優先度を変更できると嬉しいです」とのフィードバックあり。
  • 分析:優先度の変更操作が複雑なため、ドラッグ&ドロップで優先度を変更できるようにする改善策を提案。

ステップ2:優先度の再評価とタスクの調整

次に、フィードバックを元にプロジェクトの優先度を再評価し、タスクを調整します。

優先事項が変更される場合、新たな要求や修正事項を取り入れ、スケジュールを調整します。

優先度の再評価とタスクの調整の具体例
  • 1人のユーザーから問題の指摘はあったものの、他のユーザーから同じ問題に対してのコメントがなく、機能自体は動作しているため、急ぎの対処は不要と判断し、今後の課題として優先度は下げる。

ステップ3:次のスプリントへの改善の反映

最後に、収集したフィードバックから得られた教訓や改善点を次のスプリントに反映します。

これにより、プロジェクトは持続的な改善を実現し、利害関係者の期待に応える準備が整います。

フィードバックのサイクルを閉じ、プロジェクトの品質と価値を高めます。

次のスプリントへの改善の反映の具体例
  • 似た操作(タスクのプロジェクト変更やガントチャートの作成等)を行なっている箇所は全てドラッグ&ドロップ操作に変更。
  • 複雑な操作はユーザーガイドやヒントを表示することを検討。

成功するスプリントレビューのポイント3つ

スプリントレビューを成功させるためには、以下の3つのポイントが特に重要です。

スプリントレビューを成功させるためのポイント
  • デモンストレーションにおける適切な成果物の選択とバランス
  • ステークホルダーの役割と参加
  • フィードバックを活かす改善プロセス

以下、それぞれ簡単に解説します。

適切な成果物の選択とバランス

スプリントレビューでデモンストレーションする成果物は、ステークホルダーの期待とプロジェクトの進捗に合わせたバランスを取ることが重要です。

成果物の良い部分だけを切り取ってデモンストレーションをすると、ステークホルダーに対し、過大な期待を抱かせてしまいます。

また、悪い部分をまったく見せいないと、結果的に問題を隠蔽したことになり、かえって後の対応が難しくなります。

逆に、成果物の悪い部分だけ切り取ってデモンストレーションをすると、プロジェクトの成功に疑いを持たれてしまうこともあります。

このように、スプリントレビューのデモンストレーションでは、成果物のすべてを示すのではなく、バランスを考慮しつつ、重要な機能や進捗を重点的に示しましょう。

ステークホルダーの役割と参加

スプリントレビューでは、ステークホルダーは、プロジェクトの方向性を理解し、フィードバックを提供する重要な役割を果たします。

このため、ステークホルダーは、スプリントレビューに参加する際は、当事者意識を持って参加し、積極的にフィードバックすることが重要となります。

同時に、プロダクトオーナーとしては、ステークホルダーからの積極的なフィードバックを引き出すことが重要となります。

フィードバックを活かす改善プロセス

スプリントレビューでは、収集したフィードバックを活かす改善プロセスを確立することも大切です。

せっかく収集したフィードバックも、ただ収集しただけでは意味がありません。

スプリントレビューでは、すでに紹介したフィードバックの分析の手法等を活用し、課題の把握、原因究明、改善策の提案をします。

そのうえで、次回以降のスプリントにおいて、これらの改善プロセスをスプリントバックログとして組み込み、アプリ・システムの完成度を高めていきます。

まとめ

アジャイル開発プロセスの中で、スプリントレビューは非常に重要な役割を果たす開発工程です。

この工程では、成果物のデモンストレーション、ステークホルダーからのフィードバック収集、進捗の確認など、進め方によっては大きな成果が発生します。

特に、開発工程では、発注者側のステークホルダーからのフィードバックを得られる、唯一の貴重な機会です。

スプリントレビューを適切に準備し、フィードバックを有効に活用することで、プロジェクトを成功に導くことが可能です。

スプリントレビューのよくある課題と解決策

スプリントレビューにおいて、チーム内での適切なフィードバックや質問を増やすにはどうすれば良いですか?
スプリントレプロジェクト管理でコラボレーションツールを活用して、チームメンバーがリアルタイムでコミュニケーションを取りやすい環境を整えることが需要となります。

スクラムマスターが、開発チームのメンバーに対し、コミュニケーションスキルを向上させるトレーニングや、ワークショップを提供するのも効果的です。

また、プロダクトオーナーが中心となり、質問やフィードバックを遠慮せずに提供する文化を醸成すると、課題が浮上した際に早期に対処できるようになります。

ステークホルダーからのフィードバックが曖昧で、具体的な指摘がない場合に対処するための方法は何ですか?
フィードバックを提供したステークホルダーに対して、具体的な指摘や例を求めることが重要です。

具体的な問題や改善点を特定するために、質問を通じてフィードバックを詳細化しましょう。たとえば、「どの部分が問題だと感じましたか?」、「具体的な使用ケースやシナリオはありますか?」などの質問を投げかけてみましょう。

また、デモンストレーションを通じて、ステークホルダーに期待する具体的な挙動や成果物を示し、彼らに具体的な視覚的な印象を持ってもらうことも効果的です。