稟議書を電子化や稟議システムを導入するメリットやデメリットをご紹介

本記事では、紙の稟議書の電子化や稟議制度の電子化・システム化について解説しています。

稟議は、申請者の権限外の事項について、申請、承認、決裁の一連の手続きを伴う業務です。

従来は紙の稟議書を使用した手続きが一般的で、複数の担当者による手渡し、検討、承認、決裁、押印までの時間が課題でした。

しかし、DXの進展に伴い、稟議の効率化・自動化を目的とした稟議書の電子化が注目されています。

この変革により、申請から決裁までの進捗がリアルタイムで可視化され、業務プロセスの効率化が期待されます。

本記事では、稟議書の電子化に伴うメリットやデメリット、そしてワークフローシステムを活用した稟議システムの構築について詳しく解説します。

稟議書の電子化とは

稟議とは

稟議は、重要な決定をする際に上司や関係者に計画や提案を伝え、承認をもらう手続きのことです。

【意味・定義】稟議とは?

稟議とは、決裁権限外の行為における起案から申請、多段階の承認、最終的な決裁までを含む一連の手続きをいう。

企業では、組織が大きくなるほど権限が細分化され、一人ひとりの決裁権が小さくなります。

このため、決裁権がない行為については、決裁権を持つ者に対して決裁の申請をし、承認を受ける必要があります。

この一連の手続きを総称して、稟議といいます。

従来の社内稟議の課題

従来の社内稟議では、稟議書=書類による管理が一般的であり、申請から承認までのすべてのプロセスが手動で遂行されていました。

この手法にはさまざまな課題が生じ、業務の効率性に影響を与えていました。

従来の社内稟議の課題
  • 時間の遅れと手間(申請から承認までに時間がかかる)
  • 人為的なエラーや書類の喪失
  • 書類管理の複雑性(保管や検索が大変)
  • リモートワークへの対応不足(物理的な書類のやり取りのために出社が不可欠)

上記の課題に加え、2022年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法により、会計証憑や電子帳簿の保存について、電磁的データで取扱うことが注目されました。

電子帳簿保存法は、主に企業の帳簿や会計証憑の保存に関する法律であり、稟議書の保存については対象外ではありますが、法改正がきっかけとなり、稟議書についてもペーパーレス化を進める企業が増えました。

【意味・定義】ペーパーレス化とは?

ペーパーレス化とは、従来の紙に依存した業務プロセスを電子的な手段に移行し、紙の使用を最小限に抑える取り組みをいう。

    電子稟議とは

    こうした稟議書の電子化・ペーパーレス化や、デジタル化された稟議制度のことを、一般に「電子稟議」といいます。

    【意味・定義】電子稟議とは?

    電子稟議とは、稟議書の作成・回覧・承認等の一連の流れを、すべてデジタルで実施する仕組みをいう。

    稟議書のデジタル化は、稟議書の作成、稟議の申請、回覧、承認までを完全にペーパーレス・オンラインでおこなわれます。

    これにより、物理的な紙に印鑑を押す手続きが不要になります。

    電子化したい稟議書の具体例

    電子化したい稟議書は、特に組織内で承認や決裁が必要な業務のものが多いです。

    多くの企業で電子化されている稟議書の具体例をいくつかご紹介します。

    電子化したい稟議書の具体例
    支払い関連
    • 仕入れや請求書の承認プロセス
    • 支払いに関連する書類や手続き
    経理関連
    • 予算の提案と承認プロセス
    • 従業員による経費の精算と承認
    人事関連
    • 採用や転職に関する承認
    • 昇進や昇給のための申請
    総務関連
    • オフィスの移転や設備変更の承認
    • 社内行事やイベントの申請
    営業関連
    • クライアント契約に関する承認
    • 商品価格変更や割引の申請
    プロジェクト関連
    • プロジェクトの提案や進捗報告
    営業関連
    • クライアント契約に関する承認
    • 商品価格変更や割引の申請

    すでに述べたとおり、稟議制度は、決裁権限外の行為をおこなうための制度です。

    その意味では、あらゆる企業内の業務が、稟議制度の対象となるといえます。

    これらの書類は、電子稟議を導入した場合、紙ベースから電子形式に変換され、オンラインで申請や承認がおこなえるようになります。

    電子化により、業務プロセスが迅速かつ効率的になり、透明性や記録管理の向上が期待されます。

    稟議書を電子化するメリット

    次に、電子署を電子化するメリットについて詳しくみていきましょう。

    稟議書を電子化するメリット
    • メリット1. 業務スピードの向上
    • メリット2. 申請者や管理者の負担軽減
    • メリット3. 内部統制の強化
    • メリット4. ペーパーレス化によるコスト削減

    メリット1. 業務スピードの向上

    稟議書を電子化するメリットの1つ目は、業務スピードの向上です

    一般的に、稟議書を電子化した場合は、オンラインでの手続きができるようになります。

    このため、従来の稟議書による稟議とは異なり、紙の郵送などのやり取りが不要になります。

    このように、稟議書を電子化することで、申請から決裁までのフローがオンラインで円滑に進み、迅速な承認プロセスが可能となります。

    メリット2. 申請者や管理者の負担軽減

    稟議書を電子化するメリットの2つ目は、申請者や管理者の負担軽減です。

    電子化された稟議書は、簡単に検索が行えるだけではなく、リアルタイムで進行ステータスの確認ができるので、申請者や管理者は業務においてよりスムーズな判断が可能となります。

    また、電子稟議はオンラインでの利用ができるため、自宅からでも稟議の申請や承認が可能となり、効率的なリモートワーク環境の構築に寄与します。

    このように、稟議制度を電子化することで、わざわざ稟議や押印のために出社したり、稟議書を郵送したりする必要がなくなります。

    メリット3. 内部統制の強化

    稟議書を電子化するメリットの3つ目は、内部統制の強化が挙げられます。

    手動による稟議書とは異なり、電子稟議は、自動入力や入力規則・バリデーション(入力内容が入力項目と合致しているかどうかの検証・確認)を実装できます。

    このため、電子化された稟議書では、正確な情報が一貫して処理されるため、手動ミスのリスクが低減します。

    また、操作ログとして全ての履歴をデータとして残すことで、業務の透明性が向上し、トランザクションの追跡が容易になります。

    これにより、ヒューマンエラーの減少と業務プロセスの信頼性向上が期待され、組織全体の内部統制が強化されます。

    【意味・定義】トランザクションとは?

    トランザクションとは、一連の申請や承認などの処理、また途中でエラーが発生した場合には変更が取り消される操作のまとまりをいう。

    メリット4. ペーパーレス化によるコスト削減

    稟議書を電子化するメリットの4つ目は、ペーパーレス化によるコスト削減の可能性です。

    従来の紙の稟議書の場合、紙代、印刷代、書類の管理にかかる人件費、保管庫などのコストがかかります。

    他方で、電子化された稟議書では、システム・アプリの導入と運用が主要なコスト要因になります。

    また、一般的に、電子化された稟議書は、画像や動画を使用しない限りデータ量はそれほど多くないため、稟議書の保管に比べて、非常に低コストで保管ができます。

    こうした点から、電子化された稟議書は、紙の稟議書に比べて、大幅なコスト削減が可能となります。

    稟議書を電子化するデメリット

    以下では、稟議書を電子化するデメリットや気をつけたいポイントをご紹介します。

    稟議書を電子化するデメリット
    • デメリット1. システム導入や運用にコストがかかる
    • デメリット2. 業務フローの見直しが必要
    • デメリット3. 過去の書類の電子化も併せて考える
    • デメリット4. スマートフォンやタブレットへの対応も検討
    • デメリット5.セキュリティ対策が必須

    デメリット1. システム導入や運用にコストがかかる

    稟議書を電子化するデメリットの1つ目は、システム導入や運用にコストがかかる点です。

    既に述べたとおり、稟議書の電子化は、紙の稟議書にかかる紙代、印刷代、保管庫代などが不要になるため、全体的なコストの削減が見込めます。

    他方で、コストがゼロになるわけではありません。

    特に、システムの導入や運用にはコストがかかるので注意が必要です。

    高度なシステムや機能の導入は、コストを増加させる原因となり得るので、適切なシステムの選定と必要な機能のバランスを考慮することが重要です。

    デメリット2. 業務フローの見直しが必要

    稟議書を電子化するデメリットの2つ目は、業務フローの見直しが不可欠な点です。

    電子稟議を導入する場合、既存の業務フローを見直した上で、適切なシステムを導入するための慎重な検討が必要です。

    こうした電子稟議のためのシステムのことを「ワークフローシステム」といいます(詳細は後述)。

    ワークフローシステムを導入する場合は、必要な機能が正確に実装されているかどうかを確認し、既存の業務プロセスにマッチするよう工夫しましょう。

    また、システム導入に伴い、社内でのサポート体制を強化することで、スムーズな導入と円滑な運用を確保できます。

    デメリット3. 過去の書類の電子化も併せて考える

    稟議書を電子化するデメリットの3つ目は、過去の書類の電子化も併せて考える必要がある点です。

    既に述べたとおり、会計証憑等の一部の書類は、電子帳簿保存法の改正により、電子保存が必須となるケースもあります。

    このため、電子稟議を導入する場合は、稟議書の電子化だけではなく、そのほかの書類や過去の書類も含めた包括的な検討が望ましいです。

    法的な規定への適合性を確保しつつ、過去の書類も効果的に一元管理できる環境構築の検討が重要です。

    デメリット4. スマートフォンやタブレットへの対応も検討

    稟議書を電子化するデメリットの4つ目は、PCだけではなくスマートフォンやタブレットへの対応も検討が必要な点です。

    稟議書の電子化により、自宅からPCで稟議ができるようになります。

    そのうえで、PCのみならず、スマートフォンやタブレットに対応したシステムの導入もおすすめです。

    これにより、インターネットに接続されている状態であれば、どこからでも簡便に業務を遂行できるようになります。

    デメリット5.セキュリティ対策が必須

    稟議書を電子化するデメリットの5つ目は、セキュリティ対策が必須であることです。

    一般的なワークフローシステムは、オンラインが前提となりますので、不正アクセスによるハッキングやクラッキングによる情報漏洩を完全に防ぐことは困難です。

    こうした情報漏洩の対策としては、重要な稟議の場合では従来の稟議書を使用することや、スタンドアロン型のワークフローシステムを導入することなどがあります。

    【意味・定義】スタンドアロン型とは?

    スタンドアロン型とは、他のシステムやネットワークに依存せず、独立して動作するシステムをいう。

    ただし、一般的なワークフローシステムは、高度なセキュリティ対策がなされていることが多いため、ワークフローシステムそのものを原因とした情報漏洩のリスクは、それほど高くはありません。

    稟議システム(ワークフローシステム)を導入して稟議を電子化

    稟議システムは数多く存在していますが、広範な業務プロセスを効率的にカバーするワークフローシステムを活用した稟議システムの構築も一つの有益な選択肢です。

    以下では、稟議を電子化する方法として、稟議システム(ワークフローシステム)を導入する方法についてご紹介します。

    稟議システム(ワークフローシステム)とは?

    【意味・定義】稟議システムとは?

    稟議システムとは、複数の承認者がオンラインで稟議書を照会し、承認するシステムをいう。

    【意味・定義】ワークフローシステムとは?

    ワークフローシステムとは、業務プロセスを効率的に管理し、タスクや情報の流れを自動化するためのソフトウェアやツールをいう。

    稟議システムとしてワークフローシステムを使うことで、それぞれの企業の独自の業務プロセスに合わせて柔軟にカスタマイズされた稟議システムを構築できます。

    また、カスタマイズ性の高いワークフローシステムは既存の業務プロセスに組み込むことができ、紙の稟議書からの移行にもスムーズに対応できます。

    稟議システム(ワークフローシステム)でできること

    稟議システム(ワークフローシステム)でできることの具体例
    申請フォームの作成 業務プロセスに適したカスタマイズされた申請フォームを構築することで、ユーザーは使いやすいデザインでスムーズに申請情報を入力でき、利便性が向上します。
    承認ルートの設定 組織の規定に従って、業務プロセスを適切な承認者に配分し、意思決定を迅速かつ透明に行うためには、承認ルートの設定が有効です。
    承認・差し戻し・代理承認 承認者はオンラインで申請を受け、迅速に承認または差し戻しを行うことができます。また代理承認では、代理者が一時的に権限を委譲します。
    外部システムとの連携 既存の他の業務システムとの統合を行うことで、一元的な管理と情報共有が実現できます。
    申請者・承認者の情報共有 検索機能を備えている稟議システム(ワークフローシステム)は、リアルタイムで稟議の進捗ステータスが更新されるので、ユーザは申請や承認の情報を簡単に確認できます。
    リモートワーク対応 システムへのアクセスがインターネットを介して可能なため、スマートフォンやタブレットからも稟議の申請や承認ができるなど、リモートワーク環境での業務遂行が容易になり、柔軟な働き方が実現します。
    運用 ログ収集やエラー処理の機能を備えることで、適切なサポートが提供され、効果的かつ円滑な業務遂行が可能となります。

    これらの機能により、業務プロセスの効率向上や透明性の向上が期待でき、紙ベースの手続きに比べて迅速で正確な意思決定が行われるようになります。

    ワークフローシステムによる稟議の電子化の効果

    ワークフローシステムによる稟議の電子化の効果(Before・After)
    導入前・Before(稟議書) 導入後・After(ワークフローシステム)
    稟議の提出と承認プロセス 手動で書類を提出し、紙ベースのプロセスを経る 電子的に提出し、自動的に承認プロセスを実行
    ドキュメント管理 紙の書類を物理的に管理し、検索が困難 電子データで管理し、検索が容易
    承認者の可視性 承認の進捗が不透明で、コミュニケーションに課題が生じる 進捗がリアルタイムに可視化され、透明性が向上
    時間と効率 承認までに時間を要し、業務プロセスが遅延 承認速度とプロセス効率が向上
    記録と履歴 書類の記録が難しく、履歴が不完全 完全かつ正確な記録と履歴の管理が可能

    Before・Afterの比較から分かるように、ワークフローシステム導入による稟議書の電子化により手間と時間が大幅に削減できます。

    まとめ

    従来の手続きにおける稟議業務は、承認プロセスの遅れや手間など、いくつもの課題がありました。

    一方、稟議の電子化により稟議業務の迅速化が可能となり、手続きにおける遅れや手間が軽減されるようになりました。

    また、電子稟議が注目される理由として、コスト削減やリモートワークへの柔軟な対応が可能な点も挙げられます。

    電子化にはワークフローシステムを利用した稟議プロセスの構築がおすすめですが、導入時にはコストの確認や既存の業務フローの見直しが重要です。

    なお、企業独自のワークフローシステムの構築ができるノーコード開発ツールとしてAppsheetがあります。

    Appsheetによるワークフローシステムシステム・アプリの構築につきましては、詳しくは、次のページをご参照ください。

    AppSheetによる稟議の電子化・ワークフローシステムのメリットとは?

    よくある質問

    電子稟議とはなんですか?
    電子稟議は、従来の紙ベースの稟議書を電子的な形式に変換し、オンライン上で申請や承認を行うプロセスです。

    これにより業務プロセスの効率が向上し、透明性が確保されます。

    稟議書の電子化にはどのようなメリットがありますか?
    業務プロセスが迅速化され、申請から承認までのスピードが向上します。

    また、透明性やトレーサビリティが増し、リモートワークにも対応でき、コスト削減や環境負荷の軽減も期待できるなど、稟議書の電子化にはさまざまなメリットがあります。

    なぜ企業は稟議システムの導入を検討するべきですか?
    稟議システムの導入は業務プロセスの効率向上や透明性の向上をもたらし、リモートワーク環境にも適した柔軟な業務遂行を促進します。

    また、紙ベースの手続きに比べてコスト削減が可能となり、持続可能な業務プロセスを構築できます。

    電子稟議を導入する際の注意点はありますか?
    稟議システムの選定や導入には予算やニーズを把握したうえでの慎重な計画が必要です。また、業務フローの見直しや社内のトレーニングも重要なポイントになります。