スクラム開発型のアジャイル開発では、ひとつのスプリントが終盤になると、作業やスクラムチームにおける今後の課題や注意点が見えてきます。
見えてきた課題や問題点を振り返り、具体的に話し合う会議が「スプリントレトロスペクティブ」です。
では、スプリントレトロスペクティブとはどのように進めればよいのでしょうか?
この記事では、スプリントレトロスペクティブの必要性や具体的な進め方についてわかりやすく解説します。
スプリントレトロスペクティブとは?
レトロスペクティブ(retrospective)とは、「回顧的」や「過去を振り返るような」という意味になります。
このことから転じて、スプリントレトロスペクティブとは、かんたんに言うとスプリントを振り返る会議のことを意味します。
スプリントレトロスペクティブでは、議題とする内容は成果や品質ではなく、スクラムチームの作業やプロセスについて振り返ります。
【意味・定義】スプリントレトロスペクティブとは?
スプリントレトロスペクティブとは、スプリントを振り返り、作業を行う中で感じた問題点や課題を話し合うことをいう。
スプリントレトロスペクティブを行うことで、今後のスプリントにおける作業が改善され、洗練されることが期待できます。
スプリントレトロスペクティブの参加者は開発メンバーのみ
スプリントレトロスペクティブの参加者は開発チーム・スクラムチームの開発メンバーのみに限定されます。
このため、受注側の責任者であるスクラムマスターや発注側の責任者であるプロダクトオーナーは参加しません。
つまり、スプリントレトロスペクティブは、開発メンバーだけの内々の会議となり、スクラムチームによる自主運営が基本となります。
これにより、開発メンバーによる幅広く自由な会話や議論が期待できます。
【意味・定義】スクラムチームとは?
スクラムチームとは、スクラム開発において開発を担当するチームをいう。
スプリントレトロスペクティブの必要性
スプリントレトロスペクティブは、全メンバーを含めたスクラムチームの成長のために非常に重要です。
スプリントレトロスペクティブの実施には、以下のメリットがあります。
スプリントレトロスペクティブのメリット3つ
- メリット1:スプリントごとにこまめに振り返ることで、業務で感じたことを忘れる前に共有できる
- メリット2:チーム全体で行うことで、コミュニケーションを促進し、チーム力を高める
- メリット3:問題をチームで共有することで、チーム全体の生産性が向上できる
複数人でのチームの作業は「一つの手法で続ける方が成熟度が増す」と考えられやすく、新たな方法や考えを受け入れない傾向があります。
しかし、一つの手法にこだわることは、新しい効率的な作業や考え方を見逃す弊害になりがちです。
スプリントレトロスペクティブにより、メンバーが感じた作業での改善点や問題点を指摘し合うことで、スクラムチームのさらなる成熟を促すことができます。
スプリントレトロスペクティブの流れ
ここでは、実際のスプリントレトロスペクティブの流れを解説します。
【スプリントレトロスペクティブの具体的な流れ】
- 手順1:ミーティング前に必要な準備
- 手順2:目的・進め方を確認・共有
- 手順3:良かった点(Keep)を洗い出す+発表
- 手順4:問題点(Problem)を洗い出す+発表
- 手順5:良かった点・問題点を議論し、目標(Try)を決める
今回は、主流な方法であるKPT(ケプト)を例に挙げてみていきましょう。
【意味・定義】KPT(Keep・Problem・Try)とは?
KPT(読み方:ケプト)とは、Keep(維持)・Problem(問題点)・Try(挑戦)の要素からなるフレームワークをいう。
手順1:ミーティング前に必要な準備
ミーティングの事前準備として、以下を行います。
スプリントレトロスペクティブの事前準備
- ホワイトボード・付箋・ペンなどを揃える
- 必要に応じてシートをチーム全員に共有
- タイムボックス(ミーティング時間)の決定
事前の準備を行うことで、スムーズにチームメンバーひとりひとりの考えや意見を聞き、まとめることができます。
スプリントレトロスペクティブは多くの手法や進め方があるため、チームに合ったやり方を選んで行うのが良いでしょう。
ホワイトボードや付箋を使うアナログな方法やExcelなどのシート・Miroなどのデジタルホワイトボードを用いるデジタルな手法もあります。
ホワイトボードを使う場合では、左半分の上部に良かった点(Keep)、下部に問題点(Problem)を、右半分に挑戦(Try)と記載し、付箋を貼るスペースを作っておきます。
また、タイムボックスを決定し、限られた時間内で質の高いミーティングにすることも大切です。
1週間のスプリントであれば、ミーティングは45分~1時間程度がよいでしょう。
手順2:目的・進め方を確認・共有
続いて、スプリントレトロスペクティブを実施する目的や進め方をチーム全体で確認し、共有します。
具体的には以下のようなことを説明し、確認します。
スプリントレトロスペクティブの目的・進め方について確認・共有すること
- スプリントレトロスペクティブを行う目的
- ミーティングの流れ
- 話し合う内容
- ミーティングでのルール
特に、話し合う内容については、実際に開発している業務の問題点だけでなく、チームの環境など実働作業に影響する問題点も含むことを周知してください。
ミーティングでのルールには、メンバー全員が平等に発言権を持つことや積極的に参加することなどを確認することも大切です。
目的や進め方についての確認・共有はメンバーの様子を見ながら、慣れていないうちは手厚く、浸透してきたら実施せずにミーティングを始めても良いでしょう。
手順3:良かった点(Keep)を洗い出す+発表
ミーティングでは、最初に良かった点(Keep)を洗い出し、発表します。
良かった点(Keep)をメンバー全員が付箋に記入し、ホワイトボードのKeep欄に張り出します。
共通する意見や似通った考えは近くにまとめると、議論を進めやすくなるでしょう。
良かった点に挙げられたことは、チーム全体で継続(Keep)するようにします。
ミーティングの最初に良かった点を挙げることで、ネガティブな雰囲気になるのを避け、意見を発言しやすい環境を作ることができます。
手順4:問題点(Problem)を洗い出す+発表
つづいて、問題点(Problem)をメンバー全員が付箋に記入し、ホワイトボードのProblem欄に張り出します。
この時、Keepで挙げられた意見と関連性の高い問題点は線でつなげておくと整理しやすくなります。
問題点には、作業でのミスや不満・不安に思っていること、チームにおける課題などを挙げてください。
あくまでもチームの問題点や不安を挙げるものなので、個人的な内容にならないことも気を付けましょう。
また、特定の個人の責任を追求することは、スプリントレトロスペクティブの目的ではありませんので、控えましょう。
手順5:良かった点・問題点を議論し、挑戦(Try)を決める
良かった点と問題点を洗い出して議論・整理すると、新たな挑戦や改善案が見えてきます。
挑戦すべき目標・改善案をメンバーそれぞれが付箋に書き込み、Try欄に貼ります。
また、KeepやProblemとは関連がなくてもチャレンジしたいことがあれば、自由に付箋に書きましょう。
問題点に対する改善策で複数の意見が出た場合には、以下の方法での解決が有効です。
Tryの方法
- 投票や多数決を用い、多くのメンバーの意見が集まった目標に注力する。
- 目標を実行することで得られる効果と実施するためのコストを比較して考える。
Tryでのポイントは、挙がった「目標」はあくまでも案であり、すべて行う必要はないということです。
「今、本当に必要なTry」だけに注力し、いくつかのProblemを残しておくことで後々よりよい解決策を思いつくこともあります。
目標は1〜3個くらいに絞ると、ひとつのアクションでの効果を感じやすくなるでしょう。
会議の後、チームのリーダーが管理者に報告し、要望や依頼を行います。
まとめ
今回は、スプリントレトロスペクティブについてお伝えしました。
スプリントレトロスペクティブは、チーム全体における作業を効率化・活性化させるために非常に重要です。
ふりかえりで得た問題点や目標を活かしてスクラムチームをより成熟させると、生産性の高いチームに導くことができます。
ぜひ、今回の記事を参考に、よりよい開発ができるスクラムチームを目指してくださいね。
スプリントレトロスペクティブについてよくある疑問
- スプリントレビューとスプリントレトロスペクティブの違いはなんですか?
- スプリントレトロスペクティブとスプリントレビューの大きな違いには、目的と参加者が挙げられます。
スプリントレビューとレトロスペクティブの違い スプリントレビュー スプリントレトロスペクティブ 目的 - スプリントでの開発の工程や活動、成果を査定する
- 次回のスプリント計画に向けて追加するべきことを理解する
- チームのプロセスを改善すること
- チーム内の人間関係の構築
参加者 - 管理者(スクラムマスター)
- 発注者(プロダクトオーナー、場合によってはさらに上位の管理者)
- 開発者
- ステークホルダー
- 開発チーム/スクラムチームの開発メンバーのみ
※管理者は参加しない
スプリントレビューの目的は、スプリントでの開発の工程や活動など実際に産み出した成果について査定することです。
また、参加者についてもレトロスペクティブが開発チームのスクラムメンバーに限定されるのに対し、スプリントレビューは幅広い参加者が必要です。
- スプリントレトロスペクティブを行うときの注意点はありますか?
- スプリントレトロスペクティブを行うときは、以下の3点に注意が必要です。
- プロジェクト期間に応じた時間(タイムボックス)で実施する
- 透明性の高い、話しやすいチームの雰囲気を上手く作る
- 開発の成果や内容についての議論にしない
スプリントレトロスペクティブを行う際には、1時間ほどのタイムボックスを組み、その時間内で行います。
発言や振り返りをより有意義なものにするために、透明性の高い話しやすいチームの雰囲気を作ることも大切です。
メンバーの発言が少ないチームは、現状維持の気持ちがあったり、「自分が発言しても変わらない」という考えが潜んでいる可能性があります。
話しにくい空気はスプリントレトロスペクティブを形骸化させるため、チームをより良くする高いモチベーションを持てるような組織を作りましょう。
また、開発の内容など業務そのものに関する話し合いは、レトロスペクティブで行うものではありません。
あくまでも、チーム内の業務改善の一環として行われることに注意が必要です。