中小企業のマニュアル整備の実践的進め方と業務の効率化・標準化のポイント

マニュアル整備に着手してみたものの、「途中で作業が止まってしまっている」「更新や運用まで手が回らない」――そんな状態になっていませんか?

実は、多くの企業でマニュアル整備は作成途中で頓挫する傾向があります。

背景には、「どこまで整えればよいのか分からない」「現場の協力を得られない」「更新や承認の体制がない」など、設計や運用の仕組みづくりが後回しになっていることが少なくありません。

しかし、マニュアルは単に作るだけでなく、全社で共有・活用し、継続的に改善していく仕組みとして整備することで、はじめて真価を発揮します。

本記事では、マニュアル整備が途中で止まりがちな理由を整理したうえで、整備を軌道に乗せるためのメリット・リスク・基本ステップ・活用ツール・体制構築の考え方まで、体系的に解説します。

マニュアル整備とは|意味・目的と企業での位置づけ

マニュアル整備は、文字通り、マニュアルを整備することです。

【意味・定義】マニュアル整備とは?

マニュアル整備とは、業務フローやノウハウを文書化・可視化し、企業内で知識やスキルを形式知として共有する取り組みをいう。

マニュアルは、経験やスキルの属人化を防ぎ、誰もが一定の水準で業務を遂行できるようにするだけでなく、継続的な業務改善や組織力向上のための基盤になります。

マニュアル整備では、ともすれば作成されるマニュアルそのものが注目されがちです。

もちろん、マニュアル自体も重要ではありますが、マニュアル整備では、業務の標準化、暗黙知の形式知化、ノウハウの資産化、知的財産の保護など、作成過程こそ重要となる部分があります。

マニュアル整備で解決できる課題と具体的なメリット

続いて、マニュアル整備で解決できる課題と具体的なメリットについてみていきましょう。

マニュアル整備で解決できる課題と具体的なメリット
  • メリット1. 業務の標準化と品質の安定化
  • メリット2. 新人教育・人材育成の効率化と即戦力化
  • メリット3. 業務引継ぎのスムーズ化と事業継続性(BCP)強化
  • メリット4. ノウハウの組織資産化
  • メリット5. 業務効率の向上と生産性の最大化

メリット1. 業務の標準化と品質の安定化|ばらつきを抑える

マニュアル整備で解決できる課題と具体的なメリットの1つ目は、業務の標準化と品質の安定化です。

業務の属人化が進むと、業務の非効率化や品質のばらつきが生じるだけでなく、トラブル発生のリスクも高まります。

【意味・定義】業務の属人化とは?

業務の属人化とは、一般に、特定の個人や従業員に業務プロセスの情報や知識・技術が依存している状態をいう。

マニュアルを整備することで、業務フローが統一され、属人化を防ぎ、誰が担当しても同じ品質を保てるようになります。

これにより、ヒューマンエラーの削減が期待でき、製品やサービスの品質が安定し、顧客満足度の向上や信頼性の確保にもつながります。

さらに、法令遵守やリスク管理の観点からも、業務の標準化は欠かせない取り組みです。

業務の標準化と品質の安定化の事例
  • 製造業:作業工程マニュアルを整備 → ヒューマンエラーを年間30件から5件に削減
  • 飲食業:調理手順を標準化 → 味のブレによるクレームが月10件から1件に減少

メリット2. 新人教育・人材育成の効率化と即戦力化|OJT時間短縮と早期立ち上がり

マニュアル整備で解決できる課題と具体的なメリットの2つ目は、新人教育・人材育成の効率化と即戦力化です。

新人教育や異動者の育成において、マニュアルは強力なサポートツールとなります。

業務手順が明確に記されているため、OJTの時間を大幅に短縮でき、教育担当者の負担も軽減されます。

【意味・定義】OJT(On-the-Job Training)とは?

OJT(On-the-Job Training)とは、職場での実務を通じて先輩や上司が指導し、必要な知識やスキルを習得させるための人材育成の方法をいう。

新入はマニュアルを活用することで、自律的に知識やスキルを習得でき、入社直後から早期に即戦力として活躍できるようになります。

さらに、マニュアルは知識の定着を促すだけでなく、従業員の多能工化も支援します。

結果として、組織全体の柔軟性や変化への対応力が高まり、持続的な成長につながります。

新人教育・人材育成の効率化と即戦力化の事例
  • コールセンター:FAQ/対応マニュアルを整備 → OJT期間が3か月から1.5か月に短縮
  • 小売業:接客マニュアルに動画を活用 → 新人の定着率が前年より20%向上

メリット3. 業務引継ぎのスムーズ化と事業継続性(BCP)強化|人員交代時の業務停滞を防ぐ

マニュアル整備で解決できる課題と具体的なメリットの3つ目は、業務引き継ぎのスムーズ化と事業継続性(BCP)強化です。

人事異動や退職など、従業員の入れ替わりは避けられません。

マニュアルを整備しておけば、引継事項が大幅に削減され、業務の引継ぎが円滑に進みます。

また、事業継続計画(BCP)の観点からもマニュアルは重要です。

【意味・定義】事業継続計画(BCP)とは?

事業継続計画(BCP)とは、事前災害やシステム障害などの緊急事態が発生した際にも、重要な業務を中断させず、または早期に復旧させるための計画をいう。

予期せぬトラブルや緊急事態が発生した場合でも、マニュアルに基づいて業務を継続できるため、企業活動への影響を最小限に抑えることが可能になります。

これにより、企業全体の安定性と信頼性の向上にもつながります。

業務引継ぎのスムーズ化とBCP強化の事例
  • 建設業:引継ぎ資料をマニュアル化 → 担当交代時のミスが大幅減少
  • IT企業:障害対応マニュアルを整備 → 突発対応の属人化が解消し復旧時間を短縮

メリット4. ノウハウの組織資産化|ナレッジマネジメントの促進

暗黙知と形式知の違い|ノウハウを共有可能な形に変える第一歩

マニュアル整備で解決できる課題と具体的なメリットの4つ目は、ノウハウの組織資産化です。

マニュアル整備は、単なる引継ぎ資料づくりにとどまらず、社内に点在する従業員個人の知識を企業としての「資産」=知的財産として活用できる形に変える効果もあります。

現場で経験的に蓄積された知識やコツの多くは、言語化されていない「暗黙知」として個人に依存しています。

【意味・定義】暗黙知とは?

暗黙知とは、個人の経験や体験を通じて身についた、言語化・文書化されていない知識やノウハウをいう。
マニュアル化などによって形式知に変換することで、他者と共有・継承できるようになる。

これをマニュアルとして文書化・図解化することで「形式知」に変換でき、属人性を排して全社的に共有・再利用できるようになります。

【意味・定義】形式知とは?

形式知とは、言語や図表・数式・マニュアルなどで明示的に表現でき、他者と共有・伝達しやすい知識をいう。
暗黙知を形式知に変換することで、ノウハウを属人化させずに組織内で活用できるようになる。

ナレッジマネジメントの基盤づくり|形式知を再利用し知識を循環させる

このように形式知化されたノウハウは、他部署への横展開、新人研修教材としての活用、改善活動へのフィードバックなど、多様な場面で再利用できます。

その結果、個人単位の経験値に頼らずに組織全体で知識を循環させるナレッジマネジメントの基盤が構築され、継続的な業務改善と生産性向上につながります。

【意味・定義】ナレッジマネジメントとは?

ナレッジマネジメントとは、組織内に存在する知識やノウハウを共有・蓄積・活用することで、業務改善やイノベーションにつなげる取り組みをいう。暗黙知を形式知として可視化・共有し、全社で再利用する仕組みづくりが中核となる。

SECIモデルによる知識変換|暗黙知を形式知化し再び活用する流れ

ナレッジマネジメントにおいては、いわゆる「SECIモデル」によるノウハウの共有が重要となります。

SECIモデルとは、暗黙知と形式知を循環させながら組織内に知識を広めていくプロセスを示すフレームワークです。

【意味・定義】SECIモデルとは?

SECIモデルとは、暗黙知と形式知を相互に循環・変換しながら組織的に知的創造をおこなうプロセスを示した理論モデル・フレームワークをいう。

マニュアル整備は、このサイクルの中でも、特に②表出化、③結合化の段階を担います。

段階 説明 マニュアル整備での例
①共同化(暗黙知→暗黙知) 経験やノウハウの共有、相互理解により個人の暗黙知を組織の暗黙知とする ベテランと新人がペアで作業し、手順を観察・対話することで、個人の暗黙知を移転、共有し、組織全体の暗黙知とする
②表出化(暗黙知→形式知) 暗黙知を言語・図表などで明示する 観察内容を手順書やフローチャートとして文書化することで形式知化する
③ 結合化(形式知→形式知) 複数の形式知を統合・整理する 部門別マニュアルを統合し、全社標準マニュアルにまとめることで、社内全体の形式知とする
④内面化(形式知→暗黙知) 形式知を繰り返し実践して、新たな個人の暗黙知を創造する マニュアルを使って業務を行い、習熟することで個人の暗黙知を高める

営業秘密として保護されるノウハウにする|不正競争防止法の視点

なお、暗黙知の形式知化は、ノウハウが不正競争防止法の営業秘密として保護を受けるためにも重要となります。

【意味・定義】営業秘密(不正競争防止法)とは?

不正競争防止法の営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいう(不正競争防止法第2条第6項)。

暗黙知の形式知化は、ここでいう「秘密として管理されている」、つまり秘密管理性の要件を満たすために重要です。

実務上は、ノウハウを文書(マニュアル等)として形式知化し、アクセス権限や持出し制限などで秘密管理性を確保することで、営業秘密としての保護を受けやすくなります。

言い換えると、形式知化されていないノウハウは、「従業員個人のノウハウ」として扱われ、組織としての資産や知的財産とは扱われない可能性があります。

ノウハウの組織資産化の事例
  • IT企業:ベテランSEの設計ノウハウを動画・手順書に形式知化 → 新人教育期間を6か月から3か月に短縮
  • 製造業:熟練工の加工ノウハウをマニュアル化 → 作業品質のばらつきが減り、歩留まり率が8%改善
  • コールセンター:対応ノウハウをFAQ型マニュアルに集約 → 問い合わせ対応時間を平均30%短縮

メリット5. 業務効率の向上と生産性の最大化|自己解決の促進とムダ削減

マニュアル整備で解決できる課題と具体的なメリットの4つ目は、業務効率の向上と生産性の最大化です。

マニュアル整備は、業務効率の向上と生産性の最大化にも直結します。

業務フローを可視化することで、無駄な手順や重複作業を洗い出すことができるため、改善のきっかけが生まれます。

また、従業員が疑問に直面した際も、マニュアルを参照すれば自己解決できるため、同僚や上司への問い合わせが減少します。

その結果、各自が本来の業務に集中できるようになり、時間的・金銭的コストの削減につながります。

最終的には、企業全体の生産性向上に大きく貢献します。

業務効率の向上と生産性の最大化の事例
  • サービス業:手順の見える化 → 1件あたり作業時間を約20%削減
  • 医療機関:受付業務の標準化 → 担当者不在時でも同水準の対応が可能に

なお、業務効率化につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。

中小企業の管理職向け|業務効率化の全体像と無料相談で始める改善の第一歩

マニュアル未整備の現場で起こる主なリスクと具体例

以上のように、マニュアル整備には多くのメリットがありますが、言い換えると、マニュアルが未整備であると、様々なデメリットがあります。

マニュアルがない職場では、日々の業務が属人的になりやすく、結果として品質のばらつきや業務効率の低下、さらには事業継続性を揺るがす深刻な問題に直結するケースも少なくありません。

以下では、マニュアルが整備されていない現場で起こる主なリスクと、実際に起こり得る具体例をご紹介します。

マニュアルが整備されていない現場で起こるリスク
  • リスク1. 業務の属人化と品質のばらつき
  • リスク2. 新人教育・引継ぎの非効率化と負担増大
  • リスク3. ノウハウの喪失と事業継続性(BCP)の危機
  • リスク4. 業務効率の低下と生産性の停滞
  • リスク5. マニュアルが形骸化する落とし穴

リスク1. 業務の属人化と品質のばらつき|担当者依存の弊害

マニュアルが整備されていない現場で起こるリスクの1つ目は、業務の属人化と品質のばらつきです。

マニュアルが存在しない、あるいは形骸化している場合、業務はどうしても個人の経験や勘に依存しやすくなります。

その結果、特定の担当者以外には業務内容が分からない「属人化」が進み、効率性や品質にばらつきが生じます。

最終的には、顧客へのサービス品質が不安定になり、クレームの増加や信頼低下につながる恐れがあります。

業務の属人化と品質のばらつきの具体例
  • 飲食店で、調理担当者ごとに味付けが異なり、常連客から「前回と味が違う」とクレームが入る
  • コールセンターで担当者によって対応がバラバラになり、顧客満足度が低下する
  • 社内文書の作成ルールが個人ごとに異なり、提出物のフォーマットや質が統一されない

リスク2. 新人教育・引継ぎの非効率化と負担増大|教育品質のばらつきと定着遅延

マニュアルが整備されていない現場で起こるリスクの2つ目は、新人教育・引継ぎの非効率化と負担増大です。

マニュアルが整備されていない環境では、新人教育はOJTに依存しがちです。

教育担当者は自分の業務時間を削って指導にあたる必要があり、本来の業務に支障をきたすことも少なくありません。

さらに、教える人によって内容ややり方が異なるため、教育の質に差が出やすく、新人の成長スピードにもムラが生まれます。

引継ぎにおいても口頭説明や断片的なメモに頼るしかなく、情報の漏れや誤解が発生しやすいという問題があります。

新人教育・引継ぎの非効率化と負担増大の具体例
  • OJTで先輩が一から口頭で教えるため、教育担当者の負担が大きい
  • 異動や退職があるたびに、毎回ゼロから教育し直さなければならない
  • 新入社員が作業手順を自己流で覚えてしまい、後で修正が必要になる

リスク3. ノウハウの喪失と事業継続性(BCP)の危機|形式知化されない暗黙知の埋没

マニュアルが整備されていない現場で起こるリスクの3つ目は、形式知化されない暗黙知の埋没です。

経験豊富な従業員が持つノウハウの多くは、言語化されていない暗黙知として個人に依存しています。

マニュアルなどで形式知化されないまま属人化が進むと、その人が異動・退職した際にノウハウが組織から失われてしまいます。

このリスクの本質は、ベテランの経験やコツといった暗黙知が、マニュアル化などの形式知化を経ないまま個人に留まり、組織内で埋没してしまう点にあります。

このため、ベテラン従業員の異動・退職・長期不在のタイミングで知識が断絶し、業務停止や品質低下に直結します。

加えて、予期せぬ事態が発生した際には、事業継続性(BCP)の観点でも深刻なリスクとなります。

ノウハウの喪失の事業継続性の危機の具体例
  • 長年勤めた工場のベテラン作業員が退職し、設備のメンテナンス方法が誰も分からなくなって生産ラインが停止
  • システム担当者が急な病欠で不在となり、障害対応ができず業務が長時間ストップする
  • 新製品や新サービスの立ち上げ経験が個人任せで、次回の展開に活かせない

リスク4. 業務効率の低下と生産性の停滞|確認・手戻り・二重作業

マニュアルが整備されていない現場で起こるリスクの4つ目は、業務効率の低下と生産性の停滞です。

業務手順が明確に示されていない場合、従業員は試行錯誤を繰り返したり、都度周囲に確認したりする必要が生じます。

これにより無駄な時間や労力が発生し、業務効率は著しく低下します。

その影響は個人の生産性だけでなく、組織全体のパフォーマンス停滞にもつながり、企業成長の妨げとなります。

業務効率の低下と生産性の停滞の具体例
  • 経費精算のルールが明文化されておらず、社員が都度総務に確認。処理が遅れ、経理部門の負担も増大
  • 製造現場で作業手順が曖昧なため、同じ工程に複数人が関わり、二重作業や手戻りが頻発する
  • 情報が個人のメモや口頭にしか残らず、作業時間の多くが情報収集に費やされる

リスク5. マニュアルが形骸化する落とし穴|自己目的化・所在不明・更新停止

マニュアルが整備されていない現場で起こるリスクの5つ目は、マニュアルが形骸化する落とし穴です。

マニュアルが整備されていても、以下のような状況に陥ると形骸化し、十分な効果を発揮できません。

マニュアルが形骸化する落とし穴
作成して終わりになる マニュアルを作ること自体が目的化し、運用や更新が疎かになる
所在が不明確で使われない 保管場所が分かりにくい、検索性が低いなどの理由で、必要なときに参照されない
内容が更新されない 業務内容やシステムの変更に対応せず、古い情報のまま放置されることで、実際の業務との乖離が生じ、従業員に混乱を招く
マニュアルが形骸化する落とし穴の具体例
  • 数年前に作成したマニュアルが棚に眠ったまま放置され、新人は「結局先輩に聞くしかない」と活用されない
  • システムの仕様変更後もマニュアルが更新されず、記載された手順通りに操作してもエラーが発生し、業務が止まる
  • 作成担当者以外が編集できず、現場からの改善提案が反映されない

マニュアル整備の基本ステップ|作り方と運用の進め方

続いて、マニュアル整備の基本ステップを詳しく解説します。

マニュアル整備の基本ステップ
  • ステップ1. マニュアルの目的と対象を明確にする(5W1Hの活用)
  • ステップ2. 利用者にとって使いやすい構成を設計する
  • ステップ3. 手順をわかりやすく視覚化(動画化・図解化)する
  • ステップ4. 定期的な更新と改善を行う

ステップ1. マニュアルの目的と対象を明確にする(5W1Hの活用)|対象者と利用場面の整理

マニュアル整備の基本ステップの1つ目は、マニュアルの目的と対象を明確にする(5W1Hの活用)ことです。

いきなり書き始めるのではなく、そのマニュアルが「誰のために、何のために、どのように使われるのか」を具体的にイメージすることが不可欠です。

このとき有効なのが 5W1H の整理です。

5W1Hを意識することで、マニュアルの内容・表現・構成が最適化され、利用価値の高いマニュアルを作ることができます。

5W1Hとは?
Who(誰が)
  • マニュアルの対象読者を具体的に設定する
  • 例)新入社員、ベテラン社員、他部署の担当者など
What(何を)
  • どの業務に関するマニュアルなのか、範囲を明確にする
  • 例)特定の業務手順、システムの操作方法、トラブルシューティングなど
When(いつ)
  • マニュアルがどのような状況で利用されるのかを想定する
  • 例)業務開始時、緊急時、期間限定業務など
Where(どこで)
  • 参照される場所やデバイスを考慮
  • 例)PC、タブレット、スマホ、紙媒体、クラウド共有など
Why(なぜ)
  • なぜこのマニュアルが必要なのか、その作成目的を明確にする
  • 例)品質向上、教育期間短縮、問い合わせ削減など
How(どのように)
  • マニュアルがどのように活用されることを想定するかを具体的にする
  • 例)チェックリスト、参照資料、学習教材など

あわせて、「どこまでをマニュアルの対象とするか」という適用範囲を明確にしておくことも重要です。

作成範囲が曖昧なままだと、必要以上に膨大な内容になってしまったり、逆に本来カバーすべき作業が抜け落ちる恐れがあります。

ステップ2. 利用者にとって使いやすい構成を設計する|目次・注意点・FAQの設計

マニュアル整備の基本ステップの2つ目は、利用者にとって使いやすい構成を設計することです。

どんなにマニュアルの内容が優れていても、表現が悪いと、読みにくく分かりにくいマニュアルとなり、現場で活用されません。

良いマニュアルは、内容だけなく、表現も重要となります。

利用者がストレスなく活用できるよう、構成や見せ方に工夫を凝らすことが大切です。

工夫の具体例
タイトル、概要、目次で全体像を示す
  • マニュアルを開いた人がすぐに内容を把握できるよう、目的や対象者を明確にしたタイトル、簡潔な概要、そして詳細な目次を冒頭に配置する
  • 目次を活用することで、知りたい情報へすぐにアクセスできるようになる
ステップごとの手順説明(1ページ1メッセージ)
  • 複雑な業務は細かくステップに分割し、1つずつ丁寧に説明する
  • 「1ページ1メッセージ」を意識し、一度に多くの情報を詰め込みすぎないことで、読み手の理解度を高めることが可能
注意点、トラブルシューティング、FAQの充実
  • 業務上の注意点やよくあるトラブル、その解決方法を明記する
  • FAQを儲けることで、利用者が疑問を自己解決しやすくなり、現場での活用度が高まる
専門用語の解説
  • 業界特有の専門用語や社内用語の表現は必ず解説を加えるか、用語集を設置する
  • 利用者の知識レベルに依存しない、誰でも使えるマニュアルになる

ステップ3. 手順をわかりやすく視覚化(動画化・図解化)する|図・スクショ・動画で直感化

マニュアル整備の基本ステップの3つ目は、手順をわかりやすく視覚化(動画化・図解化)することです。

文字だけの説明では伝わりづらい内容も、図や動画を加えることで直感的に理解できるようになります。

工夫の具体例
動画マニュアルの有効
  • 手元の操作や複雑なシステム手順は動画が有効
  • 文字や画像だけでは伝わらない「動き」や「ニュアンス」を正確に伝えることができる
読みやすいフォントと色使い
  • ゴシック体のような視認性の高いフォントを使い、色は4色程度に絞って情報の優先順位を明確にする
  • これにより視覚的な混乱を防ぎ、理解度を高めることが可能
レイアウトと余白のバランス
  • 適度な余白をとり、行間や文字間を調整することで読みやすさを確保する
  • 重要な情報は太字やボックスで強調するとさらに効果的

ステップ4. 定期的な更新と改善を行う|担当者・レビュー・周期のルール化

マニュアル整備の基本ステップの4つ目は、定期的な更新と改善を行うことです。

マニュアルは一度作って終わりではありません。

業務や環境の変化に応じて継続的に更新・改善することで、常に現場で使える状態を保ちます。

定期的な更新と改善の具体例
定期的な内容確認と更新体制の確立(担当者の設置)
  • 更新担当者を設け、レビューと更新のルールを明確にすることで、最新情報を常に提供できる体制を作る
複数人による内容チェックとフィードバックの収集
  • 実務担当者だけでなく、実際の利用者(新人や関連部署の社員など)にも確認してもらうことで、多角的な改善点を発見できる
  • 利用者からのフィードバックを積極的に取り入れることも重要
運用状況のモニタリングと改善点の洗い出し
  • マニュアルが実際にどの場面で使われているか、利用頻度の高い箇所はどこなのかを把握し、改善の優先順位を明確にする
PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)の導入
  • マニュアルの整備・運用においても、PDCAサイクルを回すことが効果的
      • Plan(計画)
        • どのようなマニュアルが必要か、目的とターゲットを明確にし、作成計画を立てる
      • Do(実行)
        • 計画に基づいてマニュアルを作成し、運用を開始する
      • Check(評価)
        • マニュアルが正しく利用されているか、効果が出ているかを評価する
        • 例)利用者からのフィードバック、業務効率の変化など
      • Action(改善)
        • 評価結果に基づいて、マニュアルの内容や運用方法を改善する
  • PDCAサイクルを継続的に回すことで、マニュアルは常に「生きた情報」として、企業の業務改善に貢献し続けることができる

業種別マニュアル整備事例

製造業小売業IT企業医療機関
【製造業】ステップ別のマニュアル整備事例
ステップ 取り組み内容
ステップ1:目的と対象を明確に 作業標準が属人化 → 「新人でも品質を一定に保てるマニュアル」を目的に設定
ステップ2:構成を設計 各工程を1ページ1作業に分割、目次からすぐ飛べる構成に
ステップ3:視覚化 作業手順を写真つきで掲載、動画で正しい手の動きを解説
ステップ4:定期的に更新 改善提案が出たら即反映、月1で現場リーダーがレビュー

効果:ヒューマンエラーが月20件→3件に減少/新人教育期間を2か月→1か月に短縮

【小売業】ステップ別のマニュアル整備事例
ステップ 取り組み内容
ステップ1:目的と対象を明確に 接客対応の品質差が課題 → 「新人でも同じ接客ができるマニュアル」を目的に設定
ステップ2:構成を設計 接客手順をステップ化し、FAQ・注意事項を明記
ステップ3:視覚化 スマホで見られる動画マニュアルを作成(お辞儀・商品説明など)
ステップ4:定期的に更新 季節ごとのキャンペーン対応を追記し、週1で店長が内容を確認

効果:OJT時間を半減/クレーム件数が前年度比60%減

【IT企業】ステップ別のマニュアル整備事例
ステップ 取り組み内容
ステップ1:目的と対象を明確に 引継ぎが属人化 → 「異動・退職時のノウハウ継承」を目的に設定
ステップ2:構成を設計 業務別に「環境構築」「運用マニュアル」「トラブル対応」などをカテゴリ化
ステップ3:視覚化 画面キャプチャ付き操作手順を作成、複雑操作は動画で補足
ステップ4:定期的に更新 リリースごとにレビュー、Gitで更新履歴を管理

効果:引継ぎ期間を2週間→3日に短縮/障害対応ミスがゼロに

【医療機関】ステップ別のマニュアル整備事例
ステップ 取り組み内容
ステップ1:目的と対象を明確に 受付業務の属人化が課題 → 「誰でも同じ対応ができる受付マニュアル」作成を決定
ステップ2:構成を設計 来院受付〜会計までを業務フロー化し、注意点を一覧化
ステップ3:視覚化 窓口業務の流れを写真・図解入りで掲示、操作端末は動画で解説
ステップ4:定期的に更新 保険制度改定時に総務が内容を更新し、年1で全体見直し

効果:新人が1週間で独り立ち/患者対応ミスがほぼゼロに

マニュアル作成・管理に役立つツールとクラウドサービス

最後に、マニュアル作成・管理に役立つツールやサービスをいくつかご紹介します。

マニュアル作成ツールの紹介

マニュアル作成ツールを活用することで、マニュアル作成にかかる労力を大幅に軽減し、専門的なスキルがなくても誰でも作成に携われるようになります。

これにより、組織全体でマニュアル整備を効率的かつ円滑に推進することができます。

マニュアル作成ツール

マニュアル作成に特化したツール

専門知識がなくても簡単にマニュアルを作成できる

  • Dojo
  • Teachme Biz
  • COCOMITE

動画マニュアル作成・共有サービス

PC画面の録画やWebカメラの映像を組み合わせて、分かりやすい動画マニュアルを簡単に作成できる

  • UI share
  • CyberBridge

これらのツールを活用することで、文字だけでは伝わりにくい手順や操作も直感的に共有でき、マニュアルの活用度をさらに高めることができます。

ただし、ツールはあくまで共有・記録媒体であり、内容の設計・承認・更新をする責任体制を整えることが先決です(詳しくは後述)。

クラウド型マニュアル管理システムの利点

マニュアルは作成するだけでなく、その後の管理も欠かせません。

クラウド型のマニュアル管理システムを活用すれば、作成から更新、共有までを一元的に行うことができ、効率的かつ継続的な運用が可能になります。

さらに、情報共有のスピード向上や属人化の防止、教育・研修の効率化といった効果も期待でき、組織全体の生産性向上につながります。

クラウド型のマニュアル管理システムを導入メリット
共有・閲覧のしやすさ
  • 従業員は場所やデバイスを問わず、必要なマニュアルにいつでもアクセスできる
バージョン管理と履歴追跡
  • マニュアルの更新履歴が自動的に記録され、いつでも過去のバージョンに戻すことが可能
  • 誤った更新や不必要な変更を防ぎ、常に正確な情報を提供できる
検索機能の充実
  • キーワード検索やカテゴリ分けなどにより、必要なマニュアルや情報を素早く見つけることができる

ツールは「媒体」であり、業務の標準化プロセスが前提

マニュアル作成ツールやクラウド管理システムは、誰でも情報をアップロードできる「民主的な設計」が前提となっており、知識やノウハウを蓄積する記録媒体として非常に有効です。

しかし、優れたマニュアルを作成・運用するためには、ツール以前の問題として業務そのものを標準化し、正式な運用ルールとして確定させるプロセスが欠かせません。この設計と意思決定は、現場任せではなく上層部や責任部署が主体的に関与して行うべき取り組みです。

そのため、「ツールを導入すればマニュアルが自動的に整備される」という考え方は誤解であり、ツールはあくまで整備したマニュアルを共有・活用するための媒体に過ぎません。

もし、自社にとってどのような業務をどのように標準化すべきか判断がつかない場合は、外部の専門家に相談しながら、まずは業務の見える化・標準化から進めることをおすすめします。

マニュアル整備は「内製」か「外部委託」か?メリット・デメリット比較

最後に、マニュアル整備にあたって、社内で内製化する場合と外部の事業者に委託する場合のメリット・デメリットを提示します。

マニュアル整備の内製化と外部委託のメリット・デメリット比較表
観点 内製化 外部委託
コスト 表面上の支出は少ないが、人件費や学習コストが比較的高い。 専門知識に対する費用は必要だが、短期間で成果に直結しやすい。
スピード 社内調整や試行錯誤で時間がかかることも多い。 豊富な知見により、初動が早く結果に結びつきやすい。
ノウハウの蓄積 自社にノウハウを残せる反面、マニュアル整備のノウハウ自体に属人化の懸念もある。 支援後も運用を内製化しやすいよう設計されるケースが多い。
柔軟性 自社事情にあわせて柔軟に対応できる。 外部の視点で最適解を提案してくれるため、社内では気づけない盲点に気づける。
リソース確保 担当者が兼務になり、十分な時間が取れないことが多い。 専任チームが伴走するため、社内負荷を抑えられる。
承認・運用管理体制 承認ルールや更新体制を自社で構築する必要があり、体制整備に時間がかかる 外部が初期設計を支援し、承認フローや運用ルールを整備した状態で引き渡してもらえる
リスク 試行錯誤が長引くことで成果が出ず、モチベーションが下がることもあり得る。 実績ある支援先なら、過去に成功した再現性のあるプロセスで着実に進められる。ただし、利益相反のために同業他社での成功事例を導入できない可能性がある。

以上のように、内製化にもメリットはありますが、リソース・知見・スピードの壁に直面しやすいのも事実です。

特に「どの業務から手をつけるべきか分からない」「整理の仕方自体が分からない」段階では、外部の知見を活用しながら、まずは業務の棚卸し・標準化設計から始めるのが現実的なアプローチです。

まとめ

マニュアル整備は、単なる手順書づくりではなく、業務を標準化し、個人に依存していた暗黙知を形式知として共有可能な形に変える取り組みです。

しかし、この「業務の棚卸し」「標準化ルールの設計」「ノウハウの抽出」といった初期フェーズこそ、社内だけで進めるには大きなハードルとなります。

「現場ごとにやり方が違い、どれを基準にまとめるべきか判断できない」「ベテラン社員の頭の中にあるノウハウを、どのように言語化すればいいのか分からない」

こうした壁を乗り越えるには、私たちのように第三者の視点で業務を整理し、標準化の型づくりを支援してきた専門家を活用するのが有効です。

最初に全体像を設計してしまえば、社内での運用や更新もスムーズに回せるようになります。

「どこから手をつければいいのか分からない」と感じている段階からでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。

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