手順書とは?作成の目的・メリットと「使われない」を防ぐ実践ポイント

業務の属人化や引き継ぎの難しさ、対応品質のばらつきなどに課題を感じ、「手順書を作らなければ」と考えたことがある方は多いのではないでしょうか。

しかし、いざ作成に取り組んでみると、「どこまで書けばいいのか分からない」「現場で使われない」「更新されずに放置されてしまう」といった壁に直面するケースも少なくありません。

手順書は、単に業務を文章化すればよいものではなく、業務の整理や標準化、さらには改善まで見据えて設計することで、初めて組織の中で機能します。

本記事では、手順書の基本的な役割から、自己流で作成した際に起こりがちな問題内製化の限界、そして「使われ続ける手順書」に近づけるための考え方までを、実務の視点で解説します。

手順書とは?定義・役割・マニュアルとの違い

業務の標準化や品質維持を進めるうえで欠かせないのが「手順書」です。

しかし、よく似た文書であるマニュアルとの違いが曖昧なまま作成され、現場でうまく活用されていないケースも少なくありません。

以下では、まず手順書の基本について解説します。

手順書の定義と果たす役割

【意味・定義】手順書(Procedure)とは?

手順書(Procedure)とは、特定の業務やタスクを遂行するために必要な、具体的な手順や操作方法を、時系列に沿って記載した文書をいう。

手順書の目的は、業務を標準化し、担当者の経験やスキルに左右されずに、誰が実施しても同じ品質で再現できる状態をつくることです。

手順書により業務内容を可視化することで、担当者ごとのやり方の違いを減らし、一定の品質で作業を進めやすくなります。

特に、担当者の変更や引き継ぎが発生した際にも、業務が滞らずに進む点は大きな役割の一つです。また、日常業務を見直すきっかけとなり、属人化の防止や業務の安定運用にもつながります。

ここで重要なのは、手順書が「なぜ行うのか」といった背景ではなく、「どう実行するか」に特化した実務的なドキュメントである点です。

手順書とマニュアルの違い・関係性

多くの企業で、手順書とマニュアルは同じものとして扱われがちですが、実際には文書が担う役割・記述の深さ・対象範囲が明確に異なります。

手順書とマニュアルの違い・関係性
手順書 マニュアル
目的 個別業務を正確に実行・完遂する 業務全体の理解と判断基準を共有し、担当者が迷わず意思決定できる状態を作る
記載内容 具体的な作業ステップ、画面操作、チェック項目、注意点、完了条件など 業務の目的・背景、組織体制、業務ルール、判断基準、関連法令、業務フローなど
視点 個別タスクにフォーカスした「ミクロの視点」 業務全体の構造を俯瞰する「マクロの視点」
経費精算システムへの入力手順、月次レポート提出手順 経費精算規定、経理・財務部門の全体フロー、承認基準

手順書は独立した文書として扱われることもありますが、基本的にはマニュアルの一部として存在します。

マニュアルで定義された基準(What・Why)を満たすために、手順書が具体的な行動(How)を示す構造が望ましい形です。

どのような業務に手順書が必要になるか(部門別具体例)

手順書というと、大掛かりな業務や専門的な作業を思い浮かべるかもしれません。

しかし実際には、毎日・毎月繰り返されている「当たり前の業務」ほど、属人化やミスが起きやすい傾向があります。

以下では、部門別にそうした業務の例を整理しています。

部門 日常的・定型的な業務例(手順書化しやすい業務)
総務・管理部門
  • 入退社時の定型手続き(書類回収・アカウント依頼など)
  • 備品の貸与・返却対応
  • 社内申請の受付・一次確認
  • 代表電話・来客の一次対応
人事・労務部門
  • 勤怠データの確認・修正対応
  • 入社初日の受け入れ対応
  • 社会保険・労務手続きの定型処理
  • 人事情報のシステム登録・更新
経理・財務部門
  • 経費精算の確認・差戻し・承認フロー対応
  • 請求書の受領・内容チェック(取引先/金額/支払期日)
  • 支払処理(振込データ作成・承認・実行)
  • 会計システムへの定型入力(仕訳・補助科目登録など)
情報システム部門(情シス)
  • PC・アカウントの初期設定
  • 権限付与・削除の対応
  • 社内からの定型的な問い合わせ対応
  • ソフトウェア利用申請の処理
営業事務・営業支援部門
  • 見積書・契約書の作成手順
  • 受注内容のシステム登録
  • 顧客情報(CRM)の登録・更新
  • 営業資料の送付対応
カスタマーサポート/カスタマーサクセス
  • 問い合わせの受付・振り分け
  • 定型質問への一次回答
  • 対応履歴の入力・管理
  • エスカレーション判断ルールの運用
マーケティング部門
  • Web問い合わせ・資料請求への対応
  • メール配信の設定・実行
  • コンテンツの公開・更新作業
  • 定型レポートの作成・共有

こうしたすべての業務に手順書が必要というわけではありません。

重要なのは、こうした日常的・定型的な業務の中から、手順書の効果が高いものを見極め、優先度の高い業務から段階的に整備していくことです。

そこで、次項から、手順書が組織にもたらす具体的なメリットについて整理していきます。

手順書が組織にもたらす2つの主要メリット

手順書は、単なる「作業のやり方を書いた説明書」ではありません。

業務の品質を維持しながら再現性を高め、組織としてのパフォーマンスを底上げするための重要なインフラです。

適切に作られた手順書は、業務知識を企業の資産として蓄積する役割を持ち、継続的な改善やデジタル化の推進にもつながります。

手順書が組織にもたらす2つの主要メリット
  • メリット1. 業務を組織資産化する「脱属人化」と「標準化」
  • メリット2. 業務プロセスの可視化による改善効果

メリット1. 業務を組織資産化する「脱属人化」と「標準化」

手順書が組織にもたらす2つの主要メリットの1つ目は、業務を組織資産化する「脱属人化」と「標準化」です。

手順書は、特定の担当者しか知らなかったノウハウやコツを、文書として形式的に残し、誰でも再現できる形にします。

暗黙知を形式知に変える(ベテランの経験を引き継ぐ)

多くの組織で、ベテラン社員の「経験による判断」や「無意識の工夫」は言語化されないまま存在しています。

手順書は、これらのいわゆる暗黙知を、誰でも理解できる形式知として残す役割を果たします。

形式知の具体例
  •  「月末の伝票チェックは、締日の3営業日前に予備チェックを行う」→このベテランの習慣を手順書の明確なステップとして記載し、全員が実行できるようにする

こうした積み重ねが、業務品質を安定させ、組織としての生産性を高める基盤になります。

新人育成・OJT負荷の大幅削減

手順書が充実していると、新任者や異動者は、教育担当者に頼りすぎることなく業務を進められます。

結果として、OJTの時間を削減し、先輩社員の負担軽減にもつながります。

【意味・定義】OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは?

OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、実際の業務を通じて行う実践型教育をいう。

手順書があることで、OJTで発生しがちな「個人の教え方のバラつき」も抑えられ、教育品質の均一化が期待できます。

誰が担当しても品質が安定する「標準化」の実現

手順書を整備することで、誰が担当しても同じ手順で業務を進められる「標準化」が実現します。

担当者によるやり方の違いやスキル差による品質のばらつきが解消され、安定した品質で業務を完了できるようになります。

その結果、顧客へのサービス提供における品質が安定し、社内の作業ミスも大幅に減少するなどの効果が期待できます。

メリット2. 業務プロセスの可視化による改善効果

手順書が組織にもたらす2つの主要メリットの2つ目は、業務プロセスの可視化による改善効果です。

実は、手順書を作るプロセスそのものが、業務改善の起点として非常に効果があります。

手順書を作成するためには、業務の流れを細かく分解し、「どのステップを誰が、いつ、何のために行なっているか」という情報を整理する必要があります。

この可視化が、改善ポイントの発見やデジタル化の判断に直結します。

ムダ・ムラ・ムリの発見(3Mの定義と例)

業務の流れを文書化すると、「このステップは本当に必要か?」「この承認フローは長すぎる」など、普段は気づきにくい非効率な部分(ムダ・ムラ・ムリ)が明確に浮き彫りになります。

【意味・定義】ムダとは?

ムダとは、不要な作業や、重複している無駄な工数をいう。

【意味・定義】ムラとは?

ムラとは、担当者やタイミングによって仕事量や品質にバラつきが出る状態をいう。

【意味・定義】ムリとは?

ムリとは、担当者に過度な負担がかかっている状態をいう。

ムダ・ムラ・ムリの発見の具体例
  • 「申請書を印刷 → ハンコ → スキャン → システムへアップロード」という複雑な手順が可視化され、電子承認システムへの移行(To Be)を検討するきっかけになる

このように、文書化は業務改善だけでなくDXの入り口としても有効に機能します。

【意味・定義】DX(デジタルトランスフォーメーション)とは?

DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して業務やビジネスモデルを根本的に変革し、顧客や組織に新たな価値を生み出すことをいう。

責任と権限の範囲・判断ポイントの明確化

手順書を作成することで、業務のどのステップを誰が担当し、どの段階で判断や承認が必要なのかといった5W1Hが明確になります。

あらかじめ判断ポイントや承認フローを整理しておくことで、現場で迷いやすい場面でも適切に対応しやすくなります。

その結果、トラブル発生時にも責任の所在が明確になり、関係者間での確認や調整に時間を取られることが少なくなります。

業務を止めずに対応できる体制を整えるうえでも、こうした整理は重要です。

法令遵守(コンプライアンス)体制・リスク管理の強化

手順書の重要な役割の一つは、専門知識を持たない担当者であっても、記載された手順どおりに業務を進めることで、結果として法令を遵守した対応ができる状態をつくることです。

手順書が整備されていない場合、業務のたびに法務部や外部の専門家に判断を仰ぐ必要が生じ、業務が停滞しやすくなります。

また、不十分または実態に合わない手順書は、現場の誤った判断を招き、かえって法令違反を誘発するリスクにもなりかねません。

逆に、適切に整備された手順書があれば、詳細な法的知識がなくても、法律の基本的な考え方を理解したうえで、安定した法令遵守の業務対応が可能になります。

例えば、個人情報保護法に適合した個人情報の取扱い、下請法やフリーランス保護法を遵守した発注書の交付など、様々な法令の規制を守った手順書の整備が重要となります。

高度な業務改善を見据えた「使える手順書」の作り方7ステップ

手順書は、単に作業方法を記載するだけの文書ではなく、業務の標準化・改善・自動化を進めるうえで欠かせない組織資産として機能します。

特に近年は、リモートワークの普及や人材の流動化により、属人化リスクを最小化しながら業務品質を安定させる重要性が高まっています。

ここでは、業務改善を前提とし、現場で実際に使われる手順書を作成するための7ステップを、「Webサイトからの資料請求の受付・処理業務」を事例にしながら解説します。

7ステップの全体像

高度な業務改善を見据えた「使える手順書」の作り方7ステップ
  • ステップ1. 目的・利用者・対象範囲の明確化
  • ステップ2. 現状業務(As Is)の可視化と徹底把握
  • ステップ3. あるべき姿(To Be)の設計と標準化の確立
  • ステップ4. 構成案の作成と視覚的な工夫
  • ステップ5. 誰が読んでも迷わない具体的な手順の書き方
  • ステップ6. 仮運用・フィードバックによる実効性の検証
  • ステップ7. 更新・管理体制の構築と自動化への布石

それでは各ステップについて詳しくみていきましょう。

ステップ1. 目的・利用者・対象範囲の明確化

高度な業務改善を見据えた「使える手順書」の作り方7ステップの1つ目は、目的・利用者・対象範囲の明確化です。

手順書作成で最も重要なのは、なぜ作成するのか、誰が使うのか、どこまでを対象にするのかを明確にすることです。

ここを曖昧にしてしまうと、後々の章立てや手順の詳細度がブレてしまい、結局「現場で使われない手順書」になりがちです。

目的・利用者・対象範囲の明確化
目的(Why)
  • 品質の安定、ミス防止、処理速度向上など、目的やその優先順位を設定する
  • 可能ならKPIや数値目標を設定すると効果的
利用者(Who)
  • 新人・異動者・専門担当者など
  • 利用者のスキルレベルに応じて記載の深さを調整する
対象範囲(What)
  • 対象業務を明確に区切ることで、余計な情報が混ざることを防止
目的・利用者・対象範囲の明確化の具体例
  • 目的:受付~資料送付までの処理時間を〇分以内に短縮し、入力ミスをゼロにする
  • 利用者:新任の営業事務担当者
  • 対象範囲:Webフォーム通知確認 → CRM登録 → PDF資料のメール送信まで

ステップ2. 現状業務(As Is)の可視化と徹底把握

高度な業務改善を見据えた「使える手順書」の作り方7ステップの2つ目は、現状業務(As Is)の可視化と徹底把握です。

【意味・定義】現状業務(As Is)とは?

現状業務(As Is)とは、現状の業務プロセスを、そのままの姿で正確に把握することをいう。

多くの企業では、現場で使われている実際の作業と、管理側が想定している作業にギャップが存在します。

そのため、業務改善を始める前に「現場の実態」を正しく理解することが不可欠です。

現状業務(As Is)の可視化と徹底把握
業務の洗い出し
  • 作業観察・ヒアリングを通じて、無意識の判断や暗黙ルールまで丁寧に抽出する
フローチャート化
  • 業務全体の流れを視覚的に図式化する
  • 特に、分岐・例外処理を明確にし、複雑な業務も一目で理解できるようにする
ボトルネック特定
  • 待ち時間、手戻り作業、作業のムダを客観的に発見
  • これが「標準化(To Be)」のヒントになる
現状業務(As Is)の把握の具体例
  • 現状業務:「メール受信」→「CRMで検索」→「無ければ手動登録」→「資料添付のメール送信」
  • ボトルネック:ベテラン担当者は「氏名と会社名」で検索をするのに対して、新人は「電話番号」のみで検索し、結果的に二重登録が頻発していた

ステップ3. あるべき姿(To Be)の設計と標準化の確立

高度な業務改善を見据えた「使える手順書」の作り方7ステップの3つ目は、あるべき姿(To Be)の設計と標準化の確立です。

【意味・定義】あるべき姿(To Be)とは?

あるべき姿(To Be)とは、改善の視点から描く、最適で効率的な業務プロセスの状態をいう。

手順書は現状の記録ではなく、改善後の「標準手順」を定める文書です。

このため、「本当にその作業が必要か?」「もっと効率的なやり方はないか?」という視点で見直す作業が欠かせません。

あるべき姿(To Be)の設計と標準化の確立
最適解の追求
  • 業務のムダを排除し、必要最低限の工数にまとめる
標準手順の確定
  • ムダを削ぎ落とした「To Be」の手順を「標準手順」として確定
  • 全体が同じ基準で作業できるよう、手順を一本化する
あるべき姿(To Be)の設計の具体例
  • 標準化:CRM検索は「氏名・会社名・メールアドレス」を必須条件に統一
  • 改善:フォーム情報を自動連携し、手動入力工程を廃止(CSV/API等)

ステップ4. 構成案の作成と視覚的な工夫

高度な業務改善を見据えた「使える手順書」の作り方7ステップの4つ目は、構成案の作成と視覚的な工夫です。

手順書は「読むもの」ではなく「使うもの」です。

そのため、構成のわかりやすさや視覚的な工夫が、手順書の実用性に直結します。

構成案の作成と視覚的な工夫
構成案
  • 目次、手順、注意点、関連情報の順序を整理し、読み手が迷わない流れを設計する
視覚化
  • テキストのみでは理解が困難な作業(特にGUIを使ったITシステム操作)には、スクリーンショット、図、強調表示を用いて、視覚的に理解できるようにする
構成案の作成と視覚的な工夫の具体例
  • 構成:「1. 受付確認(Webフォーム) → 2. データ登録・連携(CRM) → 3. 資料送付(メール)」の3部構成
  • 視覚化:検索必須項目を赤枠で強調した画面例を掲載

ステップ5. 誰が読んでも迷わない具体的な手順の書き方

高度な業務改善を見据えた「使える手順書」の作り方7ステップの5つ目は、誰が読んでも迷わない手順の書き方です。

曖昧な表現は避け、誰が読んでも同じ結果が得られるレベルで明確に記述することが求められます。

誰が読んでも迷わない具体的な手順の書き方
簡潔な文章
  • 主語と目的語を省略せず、「〜してください」「〜と入力」など、命令形・完了形で統一する
具体的な指示
  • 抽象語を排除し、操作手順を細かく明記する
    • 「システムにログインし、『確定』ボタンをクリックする」など
  • 「適切に処理する」といった抽象的な表現は避ける
重要ポイントの強調
  • ミスが発生しやすい箇所、セキュリティ上の注意点などは、太字や枠で強調する
誰が読んでも迷わない具体的な手順の具体例
  • 「【重要】CRM検索画面で氏名・会社名・メールアドレスの3項目すべてが『該当なし』であることを確認するまで、新規登録ボタンを押さない」と太文字で明記

ステップ6. 仮運用・フィードバックによる実効性の検証

高度な業務改善を見据えた「使える手順書」の作り方7ステップの6つ目は、仮運用・フィードバックによる実効性の検証です。

手順書の実効性は、作成者ではなく利用者が決めます。

したがって、実務担当者によるテストを行い、作業中の疑問点・理解しにくい箇所を具体的に報告してもらい、フィードバックを反映させる作業が不可欠です。

仮運用・フィードバックによる実効性の検証の具体例
  • 新人に手順書だけを渡して作業を実施 →「検索画面に移動する手順が書かれていない」と指摘 → その内容を追記して改善

ステップ7. 更新・管理体制の構築と自動化への布石

高度な業務改善を見据えた「使える手順書」の作り方7ステップの7つ目は、更新・運用体制の構築と自動化への布石です。

手順書は一度作ったら終わりではなく、環境やシステム変更に応じてアップデートされ続ける「生きた文書」です。

更新・管理体制の構築と自動化への布石
管理責任者の設定
  • ツールの改修や制度変更があった際には速やかに手順書を更新する仕組みを定める
自動化への活用
  • 標準化された手順は、そのままRPA開発やAIなどの技術設計に利用できる
【意味・定義】RPAとは?

RPAとは、人間の定型作業を代行するソフトウェアロボットをいう。

【意味・定義】AI(人工知能)とは?

AI(人工知能)は、大量のデータをもとに学習し、人間の知的活動を模倣して判断・予測・生成などを自動的に行う技術をいう。

更新・管理体制の構築と自動化の具体例
  • 手順書の更新管理責任者をマーケ部A氏に設定
  • 標準化した「3項目検索」は、将来的にRPA化する際の要件として流用可能

【内製化の壁】自社作成における難易度と限界

前述の7ステップを、社内メンバーだけで完全にやり切ることは、実務レベルでは想像以上に高いハードルがあります。

特に、業務改善(As Is→ToBe)と業務標準化の視点が入ると、求められるスキルセット・工数・客観性が一気に増えます。

この結果、単なる「手順書作成」を超えた高度なプロジェクトになりがちです。

こうした事情により、多くの企業では途中で作業が止まったり、形だけの手順書が完成してしまうケースが後を絶ちません。

可視化(As Is把握)が難しい理由

業務の「今の姿」を正確に捉えることは、思っている以上に複雑で手間のかかる作業です。

特に暗黙知が多い業務ほど、表面化していない判断や例外対応が多く、丁寧な掘り下げが不可欠になります。

暗黙知の壁

長年の経験によって培われた熟練者のノウハウは、本人にとっては「当たり前」であり、あえて言語化する意識がないまま業務が成立しています。

こうした言語化されていない知識のことを、「暗黙知」といいます。

【意味・定義】暗黙知とは?

暗黙知とは、個人の経験や体験を通じて身についた、言語化・文書化されていない知識やノウハウをいう。
マニュアル化などによって形式知に変換することで、他者と共有・継承できるようになる。

この暗黙知を正確に抽出し、第三者が理解できるレベルに落とし込むためには、単なる聞き取りでは不十分です。

工数不足

手順書の作成は、単純な「書き起こし作業」ではありません。

現場にヒヤリング、業務観察、情報整理、文書化、レビュー、改訂など、多段階のプロセスを必要とするため、思った以上に時間とエネルギーがかかります。

特に中小企業では、通常業務に追われて手順書作成のためのまとまった工数を確保することが難しく、「やろうとしていたが、気づけば半年以上放置されていた」という事態を珍しくありません。

標準化(To Be設計)が難しい理由

業務の理想系を描き、それを標準手順として定義する作業は、単なる改善ではなく「組織の意思決定」を伴います。

このため、調整・合意形成の難感度が一気に上がります。

最適解の客観視が難しい

社内スタッフだけで標準化(To Be設計)を進めると、どうしても現在のやり方(As Is)に引きずられてしまい、本来あるべき最適な業務像を客観的に見直すことが難しくなります。

日々の業務対応に追われる中では、「この手順自体が本当に必要なのか」「別の進め方はないのか」といった根本的な検討に十分な時間を割けないのが実情です。

その結果、業務改善を目指していたはずが、実際には現状を整理し直しただけの手順書にとどまってしまうケースも少なくありません。

多くの担当者は日々の業務で手一杯のため、「そもそもこの手順は本当に必要なのか?」という根本的な問いを立てる余裕がなく、改善ではなく「現状の焼き直し」となるケースが非常に多いのです。

抵抗勢力の存在

新しい「To Be」手順への標準化は、これまでの業務の進め方や役割分担を見直すことにつながるため、現場で心理的な抵抗が生まれやすいプロセスです。

特に、業務負荷の増加や評価への影響を懸念する声が上がると、関係者間の利害調整や合意形成に時間を要します。

その結果、本来は改善を目的としていたにもかかわらず、最も波風が立ちにくい「現状のやり方を整理しただけの手順書」に落ち着いてしまうケースも少なくありません。

自己流で作った手順書にありがちな問題

手順書を自社で作成しようとした際、思ったほど活用されなかったり、途中で更新されなくなったりした経験はないでしょうか。

その原因は、書き方そのものではなく、「作り方の考え方」にあるケースが少なくありません。

ここでは、自己流で手順書を作成した場合に起こりがちな問題を整理します。

自己流で手順書を作る際に起こりがちな問題
  • テンプレや一般的なフォーマットを流用した結果、業務実態とズレが生じる
  • フォーマットが複雑になり、更新が追いつかなくなる
  • 書き手目線で作成され、現場で使われなくなる
  • テンプレを埋めることが目的化し、業務改善につながらない

それぞれ、次のとおり詳しく解説します。

テンプレや一般的フォーマットを流用した際に起こるズレ

手順書作成の際に、汎用的なテンプレートや他社事例のフォーマットをそのまま流用すると、自社の業務実態とズレが生じやすくなります。

特に、自社特有の例外処理や判断基準が抜け落ち、実際の現場で必要な情報がカバーされないケースは少なくありません。

また、別企業のテンプレを参考にすると、業務の粒度が合わず「細かすぎる」「逆に判断に迷う」といった不整合が起きることもあります。

その結果、形式上は整っていても現場で使われず、結局は口頭確認に戻ってしまうなど、標準化の効果が発揮されなくなります。

フォーマットが複雑で更新が追いつかない

手順書を丁寧に作ろうとするあまり、項目数が多く複雑なフォーマットになってしまうケースは少なくありません。

その結果、少しの業務変更でも修正箇所が多くなり、更新作業の負担が大きくなります。

特に画面キャプチャに依存した手順書では、システム変更のたびに全面的な修正が必要になりがちです。

更新が後回しになると内容が現状と合わなくなり、次第に参照されなくなってしまいます。

別の企業のテンプレを参考にすることで業務と乖離する問題

手順書が、作成者の理解を前提に書かれてしまうと、現場で使われない原因になります。

「適切に処理する」などの抽象的な表現が多いと、読み手は具体的に何をすればよいのか判断できません。

また、利用者のスキル差を考慮していない手順書では、確認や質問が頻発しがちです。

結果として手順書は参照されなくなり、業務のやり方は人に聞く状態へと戻ってしまいます。

テンプレを埋めること自体が目的化し、改善につながらない

手順書を作ること自体が目的になってしまうと、業務の実態を見直す視点が抜け落ちがちです。

テンプレートの項目を埋めることに意識が向き、現状(As Is)やあるべき姿(To Be)が十分に整理されないまま完成してしまいます。

その結果、本来は見直すべき非効率な手順や不要な作業が、そのまま「正しいやり方」として固定化されてしまうリスクがあります。

これでは、手順書が単なる記録に留まり、業務改善のツールとして機能しなくなるどころか、むしろ非効率な業務の温床にすらなりかねません。

内製化と外部支援の比較から見える、手順書作成の最適な進め方

手順書の作成は、内製で進めることも、外部の支援を活用することも可能です。

重要なのは、どちらが正解かを一概に決めることではなく、自社の状況や業務内容に対して、どの進め方が適しているかを理解することです。

そこでここでは、内製化と外部支援それぞれの特徴を、いくつかの観点から比較します。

比較項目 内製化 外部支援
業務内容の整理・可視化のしやすさ 担当者の経験や記憶に依存しやすく、業務の流れや判断基準が暗黙知のまま整理されないことが多い。 第三者の視点で業務をヒアリング・整理するため、業務全体の流れや前提条件を構造的に可視化しやすい。
業務を標準化・改善しやすいか 現状のやり方を前提に手順書を作成しがちで、業務改善の視点が反映されにくいことがある。 業務の全体像を整理したうえで設計するため、標準化や改善を前提とした手順書を作成しやすい。
第三者視点での業務整理ができるか 社内の事情や前提条件に引きずられやすく、客観的な見直しが難しい場合がある。 社内事情から距離を置いた立場で整理できるため、業務を客観的に見直しやすい
手順書の品質・再現性の安定度 作成者のスキルや経験に左右されやすく、品質にばらつきが出やすい 一定の作成プロセスに基づいて作成されるため、品質や再現性が安定しやすい。
手順書の更新・運用のしやすさ 更新ルールが曖昧になりやすく、作成後に放置されやすい 更新や運用を前提とした構成で設計されることが多く、継続的な運用につなげやすい
社内工数・担当者の負担 本来業務と並行して進める必要があり、担当者の負担が大きくなりやすい 作成作業の多くを任せられるため、社内の工数や負担を抑えやすい
手順書作成にかかる期間・スピード 業務把握や調整に時間がかかり、完成までに想定以上の期間を要することがある。 要件整理後は作成作業を集中的に進められるため、比較的短期間で形にしやすい

内製化と外部支援のどちらが適しているかは、企業の状況や対象となる業務によって異なります。

業務内容が比較的シンプルで、関係者も限られている場合は、内製で段階的に整備していくことも現実的な選択肢です。

一方で、業務が複雑で全体像の把握が難しい場合や、標準化・改善を同時に進めたい場合には、外部の知見を活用することで、より効率的に手順書を整備しやすくなります。

次に、外部の知見を活用することで、どのようにして「使われ続ける手順書」に近づけるのかを具体的に見ていきます。

外部の知見を活用して「使える手順書」に近づけるには

効率的かつ質の高い手順書作成や業務改善を実現するためには、外部の専門家やコンサルタントの知見を戦略的に取り入れることが極めて有効です。

社内だけで解決しようとすると、どうしても主観や思い込み、時間不足といった制約に縛られがちですが、外部の第三者はその制約を超えて客観的かつ専門的な視点をもたらしてくれます。

特に「業務の棚卸しが進まない」「標準化で関係者が対立する」「暗黙知がどうしても言語化できない」といった場面において、外部の視点は大きな突破力となります。

内製化の限界を補う専門家の視点

外部の専門家が提供する価値は単なる「文書作成代行」ではありません。

第三者である専門家が加わることで、As Is と To Be のズレが客観的に明確になり、属人化した業務の棚卸しも効率的に進められます。

こうした外部の視点は、内製化だけでは補いきれない課題をカバーする上で欠かせません。

外部の支援を活用する際に準備しておくべき情報

外部の専門家を活用する際、事前に最低限の情報を整理しておくことで、分析・改善フェーズのスピードと精度が一層高まります。

外部の視点を活用する際に準備しておくべき情報
現行業務フロー・既存の手順書・関連資料
  • 現状を把握するためのベース資料であり、ある程度でも準備されているとスタートがスムーズ
改善の目的・達成したいゴール
  • 「何を改善したいのか」「どの指標をよくしたいのか」が共有されているほど、提案の方向性がブレない
困っている点・課題・改善したい領域の優先順位
  • 担当者が普段感じているボトルネックを共有することで、改善すべき箇所の特定が早まる
関係部署・ステークホルダーの一覧
  • 利害関係者を把握しておくと、合意形成のスケジュールやコミュニケーションの設計がしやすくなる

これらの情報を事前に用意しておくと、外部専門家は状況を短時間で把握でき、より深い改善提案や実行支援が実現しやすくなります。

まとめ

手順書の整備は、業務を文章化すること自体が目的ではなく、業務の可視化や標準化を通じて、組織全体の生産性や安定性を高めるための取り組みです。

一方で、業務改善や標準化まで踏み込もうとすると、工数や客観性の確保が難しく、社内だけで進めることに限界を感じるケースも少なくありません。

私たちは、こうした課題を抱える企業に対し、外部の専門家として業務整理や手順書作成の支援を行ってきました。現場の実情を踏まえながら進めることで、形だけで終わらない「使われ続ける手順書」を実現できます。

手順書の作成や見直しに少しでも不安や行き詰まりを感じている場合は、まずは無料相談で現状を整理してみてください。下記のバナーから、お気軽にご相談いただけます。