本記事では、稟議書を使った稟議をしている企業や稟議制度の電子化を検討している企業に向けて、スクラッチ開発によるワークフローシステムの導入や稟議の電子化について解説します。
稟議は、申請者の権限外の事項について、申請、承認、決裁の一連の社内手続きを伴う業務です。
従来の稟議制度は、紙の稟議書を使用していたため、複数の担当者による手渡し、検討、承認、決裁、押印までの時間が課題でした。
こうした課題の解決方法のひとつに、スクラッチ開発によるワークフロー・電子稟議のシステム・アプリがあります。
今回は、スクラッチ開発を活用してワークフロー・稟議をシステム・アプリ化するメリット、効率化・自動化を解説します。
ワークフロー・稟議の課題とニーズ
ワークフロー・稟議の課題
まず、ワークフロー・稟議の課題とニーズをみていきましょう。
従来の社内稟議では、稟議書=書類による管理が一般的でした。
申請から承認までのすべてのプロセスが手動で遂行され、さまざまな課題が生じ業務効率に影響を与えていました。
従来のワークフロー・稟議の課題
- 時間の遅れと手間(申請から承認までに時間がかかる)
- 人為的なエラーや書類の喪失
- 書類管理の複雑性(保管や検索が大変)
- リモートワークへの対応不足(物理的な書類のやり取りのために出社が不可欠)
上記に加え、2022年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法により、会計証憑や帳簿の電磁的データでの保存に注目が集まりました。
稟議書は対象外ですが、電子帳簿保存法をきっかけにペーパーレス化を進める企業が増えています。
ワークフロー・電子稟議システム・アプリのニーズ
さまざまな課題の解決には、業務に対応したワークフロー・電子稟議のシステム・アプリの導入が効果的で、以下のようなニーズがあります。
ワークフロー・電子稟議システム・アプリのニーズ
- 業務スピードの向上
- 申請者や管理者の負担軽減
- 内部統制の強化
- ペーパーレス化によるコスト削減
導入システムは事業内容・規模によって検討
現場の実態や業務に合っていないシステムは最大限に活用できない可能性があるため、「不必要な機能が無い」ことも意外と重要です。
そこで注目されているのが、スクラッチ開発による既存の業務プロセスに即した必要最低限の機能を持つシステム・アプリの構築です。
スクラッチ開発の概要と向いているシステム・アプリの具体例
スクラッチ開発とは?
スクラッチ開発の概要と向いているシステム・アプリの具体例をご紹介します。
スクラッチ開発では、既存のフレームワークやライブラリを最小限利用しつつ、大半をプログラミングでシステムやアプリを構築します。
【意味・定義】スクラッチ開発とは?
スクラッチ開発とは、既存のフレームワークやライブラリを最小限利用し、残りの部分はプログラミング、コーディングをすることにより、新しいアプリ・システム・ソフトウェアの大半の機能を自ら実装する開発手法をいう。
スクラッチ開発に向いているアプリの具体例
フルスクラッチ開発は、以下のアプリ開発に向いています。
スクラッチ開発に向いているアプリの具体例
- 細部までこだわったアプリ
- サーバーもプログラムも全て自社内で管理するアプリ
- 大規模システムの代わりになるアプリ
フルスクラッチ開発とは?
これに対し、似たような表現に「フルスクラッチ開発」があります。
フルスクラッチ開発は、スクラッチ開発とはことなり、既存のフレームワークやライブラリなどを一切使わずに、一からすべてプログラミング・コーディングをして開発する手法となります。
【意味・定義】フルスクラッチ開発とは?
フルスクラッチ開発とは、システム構築やアプリ開発において、一からすべてプログラミング・コーディングして開発をする手法をいう。
当然ながら、スクラッチ開発に比べると開発費や手間がかかりますが、反面、自由度は最も高くなります。
フルスクラッチ開発は、極めて大規模なエンタープライズシステムや基幹システムなどで採用される開発手法です。
特に、事業規模が大きく、社員個人の権限が分散している大手企業としては、稟議を効率的に実施するためにワークフローシステムをフルスクラッチで開発し、稟議制度を電子化することは、有望な選択肢のひとつと言えます。
スクラッチ開発でワークフロー・稟議をシステム・アプリ化するメリット
スクラッチ開発でワークフロー・稟議をシステム・アプリ化するメリット
- メリット1. プロセスの完全な可視化と最適化
- メリット2. プロセス自動化によるエラー防止
- メリット3. 他のシステムとの柔軟な連携
- メリット4. 承認プロセスの柔軟性とパーソナライズ
- メリット5. どこでも承認可能なモバイル対応
各メリットをみていきましょう。
メリット1. プロセスの完全な可視化と最適化
スクラッチ開発でワークフロー・稟議をシステム・アプリ化するメリットの1つ目は、プロセスの完全な可視化と最適化です。
紙の稟議書を使った稟議は、どうしても稟議のプロセスが見えづらく、不透明な意思決定の温床になりがちです。
これに対し、スクラッチ開発でワークフローシステムを構築する場合、稟議の各段階におけるプロセスが透明化されることで、稟議の効率化や不正の抑止など、様々な恩恵を受けられます。
可視化効果の具体例
- 誰がどの段階で承認しているか
- どこで滞っているか
メリット2. プロセス自動化によるエラー防止
スクラッチ開発でワークフロー・稟議をシステム・アプリ化するメリットの2つ目は、プロセス自動化によるエラー防止です。
紙の稟議書を使う場合、ワークフローや稟議では多くの手作業を伴うため、ヒューマンエラーが発生しやすいです。
これに対し、スクラッチ開発でワークフローシステムを構築する場合、稟議のプロセスに各種ルールを柔軟に設定することができます。
特定の条件が満たされない限り次のステップに進めないルールを設けてワークフローを自動化すると、承認ミス、書類紛失リスクなどを低減できます。
メリット3. 他のシステムとの柔軟な連携
スクラッチ開発でワークフロー・稟議をシステム・アプリ化するメリットの3つ目は、他のシステムとの容易な連携です。
一般的なパッケージソフトやオンラインサービスのワークフローシステムであっても、他のシステムとの連携ができるものもあります。
しかしながら、こうした既製のシステムは、他のシステムの中でも、一定程度普及されているものにしか対応していない等の制約や限界があります。
これに対し、スクラッチ開発でワークフローシステムを構築した場合、既製のシステムでは対応が難しい特殊なAPIや非標準プロトコル、とりわけ自社でスクラッチ開発した他のシステムであっても、柔軟に対応できます。
これにより、単に稟議の効率化のみならず、業務全体の効率化が図れます。
例えば、以下のシステムやアプリと連携させると便利です。
連携すると便利なシステム・アプリ
- 人事管理システム(申請者や承認者の部署、役職、氏名等の取得)
- プロジェクト管理ツール(稟議が承認・決裁された場合の内容の反映)
- カレンダーアプリ(稟議のスケジュール等の反映)
メリット4. 承認プロセスの柔軟性とパーソナライズ
スクラッチ開発でワークフロー・稟議をシステム・アプリ化するメリットの4つ目は、承認プロセスの柔軟性とパーソナライズです。
ワークフローシステムの中には、パッケージソフトのものや、ノーコード開発で構築できるものもあります。
これらのワークフローシステムもある程度柔軟な使い方ができますが、ツールの組織の部門ごとに承認フローが異なる場合、対応が難しいケースも少なくありません。
これに対し、スクラッチ開発でワークフローシステムを構築した場合、各部門やプロジェクトに合わせた承認プロセスをカスタマイズして設計できます。
承認プロセスの柔軟性とパーソナライズの具体例
- 特定の条件に基づいた承認者の自動割り当て
- 特定のプロジェクトにおける複数段階の承認フロー設定
- リモートワークや出張先での承認
メリット5. どこでも承認可能なモバイル対応
スクラッチ開発でワークフロー・稟議をシステム・アプリ化するメリットの5つ目は、どこでも承認可能なモバイル対応です。
紙の稟議書を使う場合、情報漏洩の防止等の観点から、通常は、事務所内で手続きをおこなうこととなります。
しかも、決裁権者が複数の事務所にいる場合は、郵送での手続きとなるため、郵送代が発生し、時間もかかってしまいます。
これに対し、スクラッチ開発でワークフローシステムを構築した場合、専用アプリやモバイルに最適化したインターフェースを構築ができます。
また、パッケージソフトやノーコード開発ツールのワークフローシステムに比べて、高度なセキュリティ対策も可能となります。
これにより、外出先でも安全かつ効率的にスマートフォンやタブレットから承認プロセスを進められます。
一般的なワークフロー・電子稟議システム・アプリに含まれる機能
一般的なワークフロー・電子稟議システム・アプリには、以下のような機能が含まれています。
一般的なワークフロー・電子稟議システム・アプリに含まれる機能 |
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承認フロー設定機能 |
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申請フォーム作成機能 |
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通知・リマインダー機能 |
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承認・否認・差戻し機能 |
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進捗管理・追跡機能 |
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ドキュメント管理 |
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スクラッチで実装したいワークフロー・電子稟議システム・アプリの独自機能
スクラッチで実装したいワークフロー・電子稟議システム・アプリの独自機能をいくつかご紹介します。
スクラッチで実装したいワークフロー・電子稟議システム・アプリの独自機能
- 機能1. AIによるの稟議の最適化
- 機能2. カスタマイズされたプロセスの可視化ダッシュボード
- 機能3. リモート承認機能
- 機能4. 自動化されたフィードバック収集機能
- 機能5. 高度な分析と予測機能
機能1. AIによるの稟議の最適化
スクラッチで実装したいワークフロー・電子稟議システム・アプリの独自機能の1つ目は、AIによるの稟議の最適化機能です。
スクラッチ開発でワークフローシステムを構築した場合、稟議の各段階において、AIによるサポートを受けられる機能を実装できます。
例えば、稟議の起案や申請の段階では、生成AIによって、過去のデータを元に、稟議の文章を作成できます。
また、複雑な稟議のプロセスや手続きがある場合であっても、AIに申請内容を社内規程を読み込ませることで、どのようなプロセス・手続きでどの部署の誰に申請するべきなのかを判断してくれます。
ただし、これらの機能は、過去のデータが存在することや、社内規程やルールがAIに判別できる程度に整備されていることが前提となります。
AIによる稟議の最適化の具体例
- 申請したい内容について重要な項目を入力することにより、AIが申請内容を起案してくれる
- 申請内容が明確なっていると、どのような手続きで稟議を進めるべきか誘導してくれる
機能2. カスタマイズされたプロセスの可視化ダッシュボード
スクラッチで実装したいワークフロー・電子稟議システム・アプリの独自機能の2つ目は、カスタマイズされたプロセスの可視化ダッシュボードです。
スクラッチ開発でワークフローシステムを構築した場合、申請の進捗や承認フローをリアルタイムで視覚化し、稟議の状況を一目で把握できるダッシュボードを提供できます。
これにより、プロセスの進行状況が直感的にわかり、迅速な対応が可能になります。
プロセスの可視化ダッシュボードの具体例
- 各申請の進捗を色分けされたグラフで表示
- どのタスクが遅れているのか、どの段階にいるのかを直感的に理解できるようにカスタマイズ
機能3. リモート承認機能
スクラッチで実装したいワークフロー・電子稟議システム・アプリの独自機能の3つ目は、リモート承認機能です。
スクラッチ開発でワークフローシステムを構築した場合、外出先やリモートワーク中でもスムーズに承認を行えるよう、スマートフォンアプリを使用した簡便な承認操作ができるようになります。
これにより、場所にとらわれず迅速な意思決定ができるようになるため、業務効率が向上します。
リモート承認機能の具体例
- 承認者が出張中にスマートフォンから承認リクエストを受け取り、承認・否認・差戻しができる
- GPSを活用し、オフィス外での承認操作に特別なアクセス権を設定
機能4. 自動化されたフィードバック収集機能
スクラッチで実装したいワークフロー・電子稟議システム・アプリの独自機能の4つ目は、自動化されたフィードバック収集機能です。
スクラッチ開発でワークフローシステムを構築した場合、申請が承認または否認された後、決裁権者から効率的にフィードバックを収集する機能を実装できます。
こうしたフィードバックは、個々の稟議プロセスの改善に役立てることができます。
これにより、承認プロセスの課題や改善点を把握し、業務フローの最適化が実現します。
フィードバック収集機能の具体例
- 承認者が申請に対するコメントを入力するように促すポップアップが表示され、過去の申請に対するフィードバックが記録・分析される
- 申請者に対して改善案を提案
機能5. 高度な分析と予測機能
スクラッチで実装したいワークフロー・電子稟議システム・アプリの独自機能の5つ目は、高度な分析と予測機能です。
スクラッチ開発でワークフローシステムを構築した場合、過去の申請データや承認履歴をもとに、将来の業務プロセスで発生しうる遅延やボトルネックを予測します。
こうした予測モデルにより、単に稟議の効率化のみならず、特定の時期に遅延しやすいタスクを事前に警告し、業務プロセス全体のスムーズな進行をサポートします。
分析と予測の具体例
- 過去1年間のデータを分析し、「この部署の承認が通常より遅れている」といったアラートを提供
スクラッチでワークフロー・電子稟議システム・アプリを構築する際のポイント
スクラッチでワークフロー・電子稟議システム・アプリを構築する際のポイント
- ポイント1. 承認プロセスの明確化と最適化
- ポイント2. 規程やポリシーに基づくルール整備
それでは、各ポイントをみていきましょう。
ポイント1. 承認プロセスの明確化と最適化
スクラッチでワークフロー・電子稟議システム・アプリを構築する際のポイントの1つ目は、承認プロセスの明確化と最適化を行うことです。
電子稟議システムでは、決裁権者による承認プロセスが中心となります。
このため、誰にどのような権限があり、どのタイミングや条件で承認を行うのか、またどのようなステップで進むべきかを明確にし、組織のニーズに合わせて最適化する必要があります。
また、こうした承認プロセスは、複雑すぎると遅延が発生しやすくなるため、効率化が重要です。
ポイント2. 規程やポリシーに基づくルール整備
スクラッチでワークフロー・電子稟議システム・アプリを構築する際のポイントの2つ目は、規程やポリシーに基づくルール整備を行うことです。
稟議制度は、社内規程にもとづく会社の意思決定プロセスの根幹となるものです。
このため、ワークフローシステムは、こうした社内規程にもとづく稟議のプロセスが実装されているかどうかが重要となります。
逆にいえば、社内規程や業務プロセスが整備されていないと、いくらスクラッチ開発であっても、高機能なワークフローシステムは開発できません。
スクラッチ開発以外の開発手法
システム・アプリの開発には、「パッケージ開発」や「ローコード・ノーコード開発」などの開発手法があるので、簡単にご紹介します。
「スクラッチ」「ローコード・ノーコード」「パッケージ」各開発手法の比較 | |||
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スクラッチ開発 | ローコード・ノーコード開発 | パッケージ開発 | |
特徴 |
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メリット |
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デメリット |
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特に、ローコード・ノーコード開発は、「スクラッチ開発に比べて約2倍の生産性」と言われています(あくまで仮見積の結果として)。
構築したいアプリ・システムによっては、スクラッチ開発以外の手法を選択するのもよいかもしれません。
まとめ
ワークフロー・電子稟議システムの導入により、稟議業務の迅速化が可能になり、手続きにおける遅れや手間が軽減できます。
他方で、現場の実態や業務に合っていないワークフロー・電子稟議システムを導入してしまうと、業務プロセスの非効率化やユーザーの混乱を招くリスクがあります。
こうしたリスク・課題に対応する方法として挙げられるのが、スクラッチ開発を活用したシステム・アプリの構築です。
スクラッチ開発は従来のワークフロー・稟議業務に合わせてシステムを自由に構築できるので、自社の業務フローに最適なワークフロー・電子稟議システムの導入を考えている方にはおすすめです。
当社では、こうしたスクラッチ開発やローコード・ノーコード開発による業務アプリ・業務システムの開発会社の選定をサポートしております。
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