スクラッチ開発は、オーダーメイドのシステムをゼロから開発する、最も古典的な開発手法です。
このスクラッチ開発ですが、アプリ・システム・ソフトウェアの開発手法や技術が進歩した現在では、一部で「時代遅れ」「古い」と言われることがあります。
果たして、スクラッチ開発は、本当に時代遅れなのでしょうか?
確かに、デジタルトランスフォーメーション(DX)の時代では、ビジネス環境の変化に合わせて素早い対応が求められます。
こうした状況では、時間がかかるフルスクラッチ開発ではなく、より時間がかからない開発手法が望ましいでしょう。
しかしながら、プロジェクトの要求事項によっては、依然として、スクラッチ開発が適している場合もあります。
以下では、スクラッチ開発の基礎知識、スクラッチ開発のメリット・デメリット、スクラッチ開発の代替案、そして開発手法を選ぶ際に覚えておきたいポイントを、改めて紹介します。
スクラッチ開発とは?
【意味・定義】スクラッチ開発とは?
スクラッチ開発とは、既存のフレームワークやライブラリを最小限利用し、残りの部分はプログラミング、コーディングをすることにより、新しいアプリ・システム・ソフトウェアの大半の機能を自ら実装する開発手法をいう。
スクラッチ開発では、既存のコードや既製のソリューションは使用せず、特定のニーズや要件に合わせてプログラマーがゼロからアプリ・システム・ソフトウェアをオーダーメイドします。
以下の場合は、スクラッチ開発が向いています。
スクラッチ開発に向いているシステムの具体例
- 独自の業界やビジネス要件に合致するカスタムアプリ・カスタムシステム
- 高度なセキュリティ要件があるアプリ・システム
- 複雑なビジネスプロセスを完全にカスタマイズし自動化するアプリ・システム
- 大規模なエンタープライズシステム
- 既存のシステムでは要求事項を満たせないユニークな機能が必要なアプリ・システム
スクラッチ開発のメリット・デメリット
スクラッチ開発のメリット・デメリットについて詳しく見ていきましょう。
メリット
スクラッチ開発には、以下のメリットがあります。
メリット
- メリット1. 開発の自由度が高い(あらゆるタイプのソフトウェア開発が可能)
- メリット2. ニーズや要件に合わせてフルカスタマイズが可能
- メリット3. 機能追加・保守に柔軟に対応可能
メリット1:開発の自由度が高い
スクラッチ開発のメリット1つめは、開発の自由度が高く、オーダーメイドでアプリ開発ができることです。
スクラッチ開発は、アプリのデザインや挙動、機能に至るまで、すべて細かく設定ができます。
このため、スクラッチ開発は、競合他社のアプリと差別化するひとつの手段と言えます。
メリット2:ニーズや要件に合わせてフルカスタマイズが可能
スクラッチ開発のメリット2つめは、ニーズや要件に合わせてフルカスタマイズができることです。
これはメリット1とも関連しますが、スクラッチ開発は自由な開発ができますので、技術さえあれば、ユーザーのニーズや要件に合わせることができます。
これは、開発途中や実装後にニーズや要件が変わった場合であっても同様です。
このため、ニーズや要件が複雑や場合や特殊な場合は、スクラッチ開発が向いています。
メリット3:機能追加・保守に柔軟に対応
スクラッチ開発のメリット2つめは、機能追加・保守に柔軟に対応できることです。
開発完了後・実装後に、機能を追加したい場合や保守の際にも、開発範囲を絞ることなく柔軟に仕様の変更ができます。
このため、開発完了後・実装後に機能を追加する可能性が高い場合は、スクラッチ開発が向いています。
デメリット
スクラッチ開発には、以下のデメリットがあります。
デメリット
- デメリット1:費用が高い
- デメリット2:開発期間が長い
- デメリット3:開発に高度な技術が求められる
- デメリット4:開発途中の仕様変更は難しい
- デメリット5:完成後の管理・運用にも知識が必要
- デメリット6:必ずしも開発が完了するとは限らない
デメリット1:費用が高い
スクラッチ開発のデメリット1つめは、費用が高い点です。
スクラッチ開発は、オーダーメイドで開発を進めるため非常に開発費用が高いです。
細かい指定ができるメリットに比例して、細部などこだわるほどに費用が高くなります。
デメリット2:開発期間が長い
スクラッチ開発のデメリット2つめは、開発期間が長い点です。
スクラッチ開発は、細かく設計を行ってから開発を進めるため、ウォーターフォール型の開発手法が好まれます。
この場合、他の開発手法に比べて開発期間が長い傾向があります。
【意味・定義】ウォーターフォール開発とは?
ウォーターフォール開発とは、システム開発における工程を上流工程から下流工程に順々に移行していく開発手法をいう。
デメリット3:開発に高度な技術が求められる
スクラッチ開発のデメリット3つめは、開発に高度な技術が求められる点です。
スクラッチでの開発はプログラミング経験が必要なためプログラミングスキルが求められます。
さらに、機能や構造の指定が多く複雑になる場合、高度な開発技術が求められます。
専門性が高くなると、対応者も少なくなり、費用も高くなります。
デメリット4:開発途中の仕様変更は難しい
スクラッチ開発のデメリット4つめは、開発途中の仕様変更が難しい点です。
スクラッチ開発では企画を固め、アプリの内部や外部の設計を作り上げてから開発をスタートします。
そのため、開発途中での機能追加などの仕様変更には対応が難しい場合もあります。
デメリット5:完成後の管理・運用にも知識が必要
スクラッチ開発のデメリット5つめは、完成後の管理・運用にも知識が必要な点です。
フルスクラッチ開発は、一からプログラムを組むこととなります。
このため、運用中の管理にも、プログラミングの知識がある開発者の対応が必要です。
デメリット6:必ずしも開発が完了するとは限らない
スクラッチ開発のデメリット6つめは、必ずしも開発が完了するとは限らない点です。
アプリの機能や設計が一般的なものではない場合、開発者の技術にもよりますが、必ず実装できるとは限りません。
そのため、アプリの要件が複雑化している、開発途中で機能追加をした、などを理由に開発途中で中止となるケースがあります。
スクラッチ開発は時代遅れ?技術の進歩による開発手法の変化
このように、スクラッチ開発は、非常に大きなメリットがある反面、デメリットも非常に大きい、という特徴があります。
当初は、アプリ・システム・ソフトウェアは、スクラッチ開発でしか開発ができませんでした。
しかし、現在では、アプリ・システム・ソフトウェアの開発手法や技術は、こうしたスクラッチ開発のデメリットを解消し、より効率的で迅速な開発ができるよう、進化しています。
こうした事情があるため、スクラッチ開発、特にすべてスクラッチ開発でおこなう「フルスクラッチ開発」は、「時代遅れ」「古い」と言われることがあります。
【意味・定義】フルスクラッチ開発とは?
フルスクラッチ開発とは、システム構築やアプリ開発において、一からすべてプログラミング・コーディングして開発をする手法をいう。
他方で、スクラッチ開発の代替案となるいくつかの開発手法が、注目を集めています。
スクラッチ開発の代替案とは?
具体的なスクラッチ開発の代替案としては、代表的には、以下のものがあります。
スクラッチ開発の代替案
- 1. パッケージ開発
- 2. ローコード開発
- 3. ノーコード開発
以下では、各代替案の特徴や向いているシステムについて解説します。
1. パッケージ開発
スクラッチ開発の代替案の1つめは、パッケージ開発です。
【意味・定義】パッケージ開発とは?
パッケージ開発とは、既に作られたアプリケーションの部品を使って新しいアプリケーションが作れる方法をいう。
パッケージ開発は、既存のソフトウェア部品を組み合わせて新しいアプリケーションを構築する手法です。
このパッケージ開発では、開発時間とコストを削減できますが、スクラッチ開発に比べるとカスタマイズが限定されてしまいます。
プロジェクトの要求事項に合致する場合や特別な要件がない場合、パッケージ開発は、効率的な選択肢です。
具体的には、以下の場合は、パッケージ開発が向いています。
パッケージ開発に向いているシステムの具体例
エンタープライズアプリケーション(事業用の大規模アプリ)や特定の業界向けのソリューション
- 会計ソフト
- ERPシステム
- CRMシステム
2. ローコード開発
スクラッチ開発の代替案の2つめは、ローコード開発です。
【意味・定義】ローコード開発とは?
ローコード開発とは、プログラミングスキルが少なくても、ビジュアルなツールやコンポーネントを使ってアプリケーションが作れる方法をいう。
ローコード開発は、プログラミングの知識が限定的な開発者でも新しいアプリケーションを構築できる手法です。
プログラミングを最小限に抑え、ビジュアルツールやコンポーネントを使って開発を行うので、ローコード開発は、スクラッチ開発ぶ比べると、開発速度が向上します。
また、スクラッチ開発に比べると限定はされてしまいますが、必要に応じてカスタマイズも可能です。
具体的には、以下の場合は、ローコード開発が向いています。
ローコード開発に向いているシステムの具体例
中程度のカスタマイズが必要なビジネスアプリケーション
- ワークフローアプリケーション
- 内部ツール
この他、ローコード開発につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
3. ノーコード開発
スクラッチ開発の代替案の3つめは、ノーコード開発です。
【意味・定義】ノーコード開発とは?
ノーコード開発とは、プログラミングせず、ノーコードツールの使用により、ビジュアルなツールやドラッグ&ドロップ等の直感的な作業によるアプリケーションやWebサービスの開発が可能な開発手法をいう。
ノーコード開発は、プログラミングの知識がない人でも新しいアプリケーションを構築できる手法です。
ビジュアルツールやドラッグ&ドロップを使用するので非常に使いやすく、素早くプロトタイプ(模型)を作成できます。
また、社内で使うシンプルな機能のみのものであれば、プロトタイプではなく、実用性のあるアプリ・システムとしても使えます。
しかし、カスタマイズが必要な機能を実装する場合には制約が生じることがあります。
具体的には、以下の場合は、ノーコード開発が向いています。
ノーコード開発に向いているシステムの具体例
シンプルなアプリケーションの構築
- アンケートフォーム
- イベント登録
- スケジュール管理
- タスクリストアップ
この他、ノーコード開発につきましては、詳しくは、以下のページをご覧ください。
アプリ・システムの開発手法を選ぶ際のポイント7選
スクラッチ開発が「時代遅れ」「古い」かどうかは重要ではない
このように、いずれの開発手法も、それぞれ特徴やメリット・デメリットがあります。
このため、アプリ・システムの発注者にとって重要なことは、開発するアプリ・システムによって適切な開発手法を選択することなのであって、スクラッチ開発が「時代遅れ」「古い」かどうかは、重要ではありません。
では、アプリ・システムの開発手法は、どのように選ぶべきなのでしょうか?
ここからは、アプリ・システムに適した開発手法を選ぶ際に覚えておきたいポイントを7つ紹介します。
開発手法を選ぶ際のポイント
- 1. プロジェクトの複雑性
- 2. 要件の明確さ
- 3. プロジェクトの納期
- 4. プログラミングスキル
- 5. 予算
- 6. カスタマイズ可能性
- 7. 将来の拡張性
1. プロジェクトの複雑性
開発手法を選ぶ際の1つめのポイントは、プロジェクトの複雑性です。
複雑性が高い場合、スクラッチ開発やローコード開発が適しています。
他方で、複雑性が低い場合はノーコード開発やパッケージ開発を選択することが有効です。
プロジェクトの複雑性を評価し、適切な開発アプローチを選ぶことが重要です。
2. 要件の明確さ
開発手法を選ぶ際の2つめのポイントは、要件の明確さです。
明確な要件がある場合、スクラッチ開発やローコード開発など、柔軟性が高い手法が適しています。
一方、要件が不明瞭な場合には、ノーコード開発やパッケージ開発のような手法が有用で、要求事項が確定していなくてもプロジェクトを始められます。
3. プロジェクトの納期
開発手法を選ぶ際の3つめのポイントは、プロジェクトの納期です。
短い納期の場合、ノーコード開発を選択することで迅速な開発が可能になります。
納期が長い場合、スクラッチ開発はプロジェクトの要件をカスタマイズできる柔軟性を提供するため、有力な選択肢となります。
なお、ローコード開発やパッケージ開発は、どちらの納期でも、ある程度対応ができます。
4. プログラミングスキル
開発手法を選ぶ際の4つめのポイントは、構築を行う人のプログラミングスキルです。
開発者のプログラミングのスキルセットに合わせて、最適な開発手法を選択することが重要です。
ゼロからコーディングをしていくスクラッチ開発、また必要に応じてカスタマイズを行うパッケージ開発やローコード開発は、スキルが十分にある開発者の力が必要になります。
開発者のスキルが限られている場合は、プログラミングの知識が不要なノーコード開発を選択しましょう。
5. 予算
開発手法を選ぶ際の5つめのポイントは、プロジェクトに与えられた予算です。
スクラッチ開発やローコード開発は、開発に時間とリソースがかかるため、予算が十分である場合に適しています。
一方、ノーコード開発やパッケージ開発は比較的低コストでプロジェクトを進行でき、予算に制約がある場合に有利です。
予算に応じて適切なバランスを見つけることが重要です。
6. カスタマイズ可能性
開発手法を選ぶ際の6つめのポイントは、カスタマイズの可能性です。
ノーコード開発は、事前に用意されたコンポーネントを組み合わせて構築するものです。
また、パッケージ開発は、ある程度のカスタマイズしかできないため、高度なカスタマイズに適していません。
このため、ノーコード開発やパッケージ開発は、カスタマイズ性に制限がかかります。
ユーザーのニーズに合わせて細かいカスタマイズが必要になる場合は、スクラッチ開発やローコード開発が適切です。
7. 将来の拡張性
開発手法を選ぶ際の最後のポイントは、将来の拡張性です。
柔軟な開発手法を選ぶことで、アプリケーションを容易に拡張し、新しい機能や要件に対応できます。
将来のビジネス成長や変更に備え、拡張性を考慮することが重要です。
スクラッチ開発やローコード開発は、高い拡張性を提供できる選択肢です。
他方で、特定のワークフローに合わせて構築されているパッケージ開発やノーコード開発は、柔軟性に制約があるため、将来の拡張性には限界があります。
まとめ
スクラッチ開発=時代遅れ・古いのではなく選択肢が増えただけ
古典的な開発手法であるスクラッチ開発は、時代遅れだと聞くことが増えてきている印象はあります。
しかしながら、すでに述べたとおり、複雑なビジネスプロセスをカスタマイズする必要がある場合など、プロジェクトによっては、スクラッチ開発は、最適な手法とも言えます。
こうした事情もあり、スクラッチ開発は、依然として多くのプロジェクトで使用されており、決して時代遅れな開発手法ではないと言えます。
というよりも、技術の進歩によって、スクラッチ開発以外の開発手法が増え、アプリ開発・システム開発の選択肢が多くなっているため、スクラッチ開発は、単にその選択肢のひとつとなっただけに過ぎないのです。
予算に応じて適切な開発手法を選択する
このため、アプリ開発・システム開発では、こうした複数の選択肢の中から、開発するアプリ・システムの仕様と予算から、最も適切な開発手法を選ぶ必要があります。
予算が潤沢にあるのであれば、スクラッチ開発を選択してもいいでしょう。しかしながら、予算に制約があるのであれば、パッケージ開発・ローコード開発・ノーコード開発も選択肢のひとつです。
というのも、これらの開発手法は、スクラッチ開発に比べて、予算を抑えることができるからです。
特に、ローコード開発・ノーコード開発の中には、かつてに比べて、低コストの割に高機能な開発ツールも出ています。
予算に制約があるのであれば、はじめからスクラッチ開発でアプリ・システムを開発するのではなく、まずはローコード開発・ノーコード開発で開発しつつ、将来はスクラッチ開発に移行することもできます。
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